絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 彼はにこやかに笑うとすぐに出てきた2つのカクテルのうちのひとつを持たせてくれる。
「じゃあ、2人の予期せぬ出会いに……乾杯」
 実はずっと彼の腕が自分の肩のすぐ後ろのソファにかけられていることが落ち着かなかった。肩を抱かれているかのようなよくある思索に、いちいち戸惑ってしまう自分は、まだ若い。
「今日はあんまりゆっくりいられないかもしれないけど」
「えっ、あぁ……」
 言われて見渡してもここから全ての席が見えるわけではないので混み具合が分からないが、さきほどからあちこちで歓声が上がっているようだし、祭りの日だけに忙しいのだろう。というか、それほどの日なのに同伴もいないというのは、実は売れっ子というのも自己評価なのかもしれない。
「美紗都さんはどうして浴衣着なかったんですか?」
 店内に入ってすぐに感じていたことを尋ねる。
「昨日汚したから(笑)。大変だったんだよ、酔って寄りかかってきちゃった子がいてさ、びしゃーってこの辺真っ赤(笑)。さっき、新しいの見に行ったんだけど、和服も洋服も気に入るのがなくてさぁ、それで美容院行っての帰りだったわけ」
「そうだったんですか……」
「でもほんと良かったねー」
「はい、あのままだったら私……」
「間違いなくここにはいないよ」
「そう……ですね」
「まあ、助かったんだしさ。今日はもう忘れちゃえ(笑)」
 あ、この笑顔可愛いかもて。
 初めてそう思った時、反対端のテーブルでシャンパンコールが鳴り、彼共々ホスト達は上客の元へ集まっていく。ホッとした。この瞬間、ホッとした客も多分少ないだろう。
 だがそれもつかの間、まだ曲が鳴り止まぬうちに、今度は女性のホステスが隣についてくれた。
 何故!?!?
「こんばんわー」
「あ、こんばんは……」
 3人の女性は両隣に座ると、
「私、ルナのミサキでーす」
 と名刺ケースからまたも名刺を出してきたのは、右隣の真っ赤なスーツの多分30代前半の女。
 ここはホストクラブだったよな……まだ酔っていないはず。
「私はナツコ」
 左隣は……多分40近いと思う。黒の落ち着いたスーツのせいもあるが、多分喋りで稼いでいるんだろうと勝手に想像した。
「あ、あの私は……新人のサエです」
 ケイコの奥から慌てて名刺を出したのは、お世辞にも美人とはいえない色黒で真っ黒のロングストレートが印象的な水色のスーツの女。
 これは一体……。
「いやね、さっき美紗都から聞いて、今日は知り合いが来てるって言うからさ」
「……」
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