絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 赤い女は早口で喋る。
「で、それが彼女って聞いたらそうじゃないっていうからさ。あ、私たちは美紗都の古い友達でね。まあこうやって時々飲みあったりする仲なんだけどぉ」
 姑?
「いやねー、早い話が、美紗都が知り合いとか友人とか、とにかくお店にプライベートな人をお客様として連れてくるのは滅多とあることじゃなくてね、どうなのかなぁと思って」
 と、ナツコは続ける。
「あ、あの、美紗都さんの彼女さんなんですか?」
 新人のサエはど真ん中をついた。いや、その方が分かりやすくていい。
「いえ、違います。初めて会ったのは……もう4か月くらい前ですけど、今日もたまたま会ったんです。で、たまたまお店を紹介されたので来ただけです。だから、友達とも違うし、ほんと、知り合いというか……」
「でも、あなたいい線いってると思う」
 何の話だ、赤い女。
「うん、なかなかいいね。特にこっちに来たら、すぐに稼げるよ」
 ナツコも……人を勝手に評価するな……。
「いい線ってやっぱり彼女ってことですかー?」
 サエが喋るとこの3人が成り立っているなーと思う瞬間である。
「あの……あんまりいいお話しではないんですけど……」
 あぁ、自分が喋らないとこの3人の妄想が止まらないんだ、とようやく気付く。
「うんうん、何でも言って」 
 ミサキはようやく真剣な顔になって話しを聞き始めた。というか、ホステスとはそもそも人の話を聞く商売だろう……。
「私、今さっきそこで変な……不審者に絡まれてしまって」
「分かる分かる、私も若い頃はいっぱいあったもの」
 それにしてもナツコもよく喋る。
「私もあったー。もうもみくちゃでね」
「それは満員電車の話でしょーが」
 ナツコの突っ込みは素早い。
「あ、ミサキさん、席移られますか?」
 気付いて寄ってきたウェイターも顔見知りということはかなりの常連なのだろう。
「いい?」
 ミサキが代表して聞く。
「はい」
 と以外にどう応えられよう……。
「かしこまりました」
 ウェイターの反応は早い。まあ、見抜けるわな……。
「で、何だっけ。絡まれて?」
 ナツコが話しを元に戻す。
「そう、で……。そこをたまたま通りかかったのが美紗都さんだったんです」
「ふーん、ドラマみたいですねぇ」
「そこら辺で隠れてたんじゃないのぉ(笑)」
 ナツコの意見に2人は爆笑した。
「で?」
 ミサキが一番興味を示しているようである。
「で……、何かお礼を、と言ったら、お店を……同伴してって話になって」
「なるほどねー。ほんとドラマみたいだねぇ」
「なんか運命の出会いっぽいよね!?!?」
「って何で相席してんの?」
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