絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 ようやく旦那が帰ってきてくれた……。多分姑付結婚生活ってこんな感じなのだろう……。
「だってさあ、あんたがプライベートの人連れてくるなんて滅多にないじゃん」
 ミサキはちょっとふてくされているようにも見える。
「……初めてだね」
「おー!! 運命の人!!」
 ナツコは勝手に盛り上げた。
「美人ですもんね、えっと、名前なんでしたっけ?」
 あぁそうだ、まだ私、名乗っても……。
「香月さん。もうほら、集んなよ」
「ってもう席移しちゃったもんねー」
 ミサキは酔っているのか、美紗都を好きなのか、微妙なラインだ。
「え、マジ??」
「マジマジ」
 40を過ぎたナツコが言うと死語に聞こえてしまう。
「ごめんねー、香月さん。こんなはずじゃあなかったんだけどねー。ちゃんと楽しめてる?」
「ひっどーい、それぇ」
「あ、いえ、私はあの……はい、楽しいです」
 精一杯にこやかに言う。
「あ、ゴメン、行かなきゃ……」
 って多分聞いてないな。
「なんか今日は忙しくてダメだねー」
 ミサキはつまらなさそうに呟く。
「店変える?」
 あ、この人達がいなくなるんだったらついでに一緒に帰ろう。
「ミサキさんの彼氏のお店行きませんかー!?」
 あれ、彼氏いるんだこの人……。
「えー!? 今からぁ♪」
「そだねー。あっちの方が落ち着くし、ミサキは放っておけばいいし」
「香月さんもどう?」
「え?」
 いやまさかここでナツコに誘われるとは……。
「落ち着いたいい店よ」
 いやー、軽いなぁ、皆……。
「いえ、私も明日早いもので。もう帰ります」
「何されてるんですか?」
 サエは普通に聞いて来る。
「ホームエレクトロニクスで働いています」
「え、電気屋さん!? 意外だねぇ」
 ナツコは目を大きく見開く。
「そっか、じゃあまたね」
「はい、楽しかったです」
 もし1人だったら、それよりは随分マシだったはずだ。
「うちの店は女の人だけでも入りやすいからまたおいで」
 ナツコは優しく言うが、そんなホステスがいるような店に1人でなんて行けるはずがない。
 そう思ったので声には出さず、ただにっこりと微笑んだ。
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