絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ
というわけなのである。それにしても中国人というところが気になって、
「どういう知り合い?」
「話せば長くなるの。とにかく明日迎えに行くわ」
「良かった、明日は休み(笑) 。何時でもいいよ」
という具合に簡単にまとまったのである。
ベンツは小一時間ほど走ると、見たこともない、もちろん来たこともない少し古びてはいるが、とても高級そうな理亭の駐車場で停車した。まさに政治家御用達という感じである。
「お連れのお客様がお部屋でお待ちでございます」
何の前触れもなく、着くなりの大勢での出迎えに驚いて、阿佐子の陰に隠れるように一歩下がってしまう。女将の言葉に、阿佐子は靴を片すこともせずまるで自宅のように上がり、急ぎ足で廊下を歩き始め、
「お部屋、早く案内して」
靴を片づけようとしたのを仲居に制された香月は、慌てて阿佐子の意思に従った。
「お父様の知り合いに会わないようにしなきゃ」
彼女は背筋を伸ばして女将の後ろを歩きながら呟くが、自分はこんなところに知り合いなどいないので安心してきょろきょろ後ろを着いて行っていた。
彼女が連れてきてくれる店は必ず上品な店だが、それでもこんな角ばった店は初めてだった。それほどの相手だということがよく分かる。
相手は阿佐子が射止めた中国人。そういえば何をしている人なのだろう。年はいくつ?
さっきから格好いいとか、素敵とか、抽象的な言葉しか聞いていない。
「こちらでございます」
丁寧な案内に緊張しながら、開けられた障子の向こうには。
「お待たせして申し訳ありません」
阿佐子は戸が開ききるより先に中に入る。
「いえ、私も今来たところです」
長い髪の毛が印象的だった。多分最初に男と聞いていなければ、まずそこを迷っただろう。
黒いスーツに長い黒髪。その人は、上座に座り、テーブルに広々と料理を並べ、既に酒を手にしていた。
「初めまして」
相手が座ったままなので、どうやって挨拶をしようか迷いながら、とりあえずお辞儀する。
「こちらがお話ししていた彼女です。香月さん」
阿佐子はその人の隣にさっと跪く。
「あぁ、初めまして。どうぞ、かけてください」
さっと出した右手は白く細い。顔も白く、またとても端整な顔立ちだった。切れ長の目は優しく揺れ、まっすぐ伸びた鼻も、薄い唇も、真ん中で分けられた綺麗な髪の毛も全てが美しいという他ない。
産まれて初めてこんな美しい人に出会った。今がまさにその瞬間だろう。
「愛、突っ立ってないで、座ったら?」
「どういう知り合い?」
「話せば長くなるの。とにかく明日迎えに行くわ」
「良かった、明日は休み(笑) 。何時でもいいよ」
という具合に簡単にまとまったのである。
ベンツは小一時間ほど走ると、見たこともない、もちろん来たこともない少し古びてはいるが、とても高級そうな理亭の駐車場で停車した。まさに政治家御用達という感じである。
「お連れのお客様がお部屋でお待ちでございます」
何の前触れもなく、着くなりの大勢での出迎えに驚いて、阿佐子の陰に隠れるように一歩下がってしまう。女将の言葉に、阿佐子は靴を片すこともせずまるで自宅のように上がり、急ぎ足で廊下を歩き始め、
「お部屋、早く案内して」
靴を片づけようとしたのを仲居に制された香月は、慌てて阿佐子の意思に従った。
「お父様の知り合いに会わないようにしなきゃ」
彼女は背筋を伸ばして女将の後ろを歩きながら呟くが、自分はこんなところに知り合いなどいないので安心してきょろきょろ後ろを着いて行っていた。
彼女が連れてきてくれる店は必ず上品な店だが、それでもこんな角ばった店は初めてだった。それほどの相手だということがよく分かる。
相手は阿佐子が射止めた中国人。そういえば何をしている人なのだろう。年はいくつ?
さっきから格好いいとか、素敵とか、抽象的な言葉しか聞いていない。
「こちらでございます」
丁寧な案内に緊張しながら、開けられた障子の向こうには。
「お待たせして申し訳ありません」
阿佐子は戸が開ききるより先に中に入る。
「いえ、私も今来たところです」
長い髪の毛が印象的だった。多分最初に男と聞いていなければ、まずそこを迷っただろう。
黒いスーツに長い黒髪。その人は、上座に座り、テーブルに広々と料理を並べ、既に酒を手にしていた。
「初めまして」
相手が座ったままなので、どうやって挨拶をしようか迷いながら、とりあえずお辞儀する。
「こちらがお話ししていた彼女です。香月さん」
阿佐子はその人の隣にさっと跪く。
「あぁ、初めまして。どうぞ、かけてください」
さっと出した右手は白く細い。顔も白く、またとても端整な顔立ちだった。切れ長の目は優しく揺れ、まっすぐ伸びた鼻も、薄い唇も、真ん中で分けられた綺麗な髪の毛も全てが美しいという他ない。
産まれて初めてこんな美しい人に出会った。今がまさにその瞬間だろう。
「愛、突っ立ってないで、座ったら?」