絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ
阿佐子に言われてようやく、気付き、なんとか一番入り口近くの下座の座椅子にちょこんと座った。室内は、この部屋で3人布団を敷いて寝ることも十分可能なほどの広さである。床の間を始めとする、ふすまや照明も細かい造りが施されており、とても豪華な雰囲気で、手に箸をとることも忘れるほどだった。
あぁ、そういえば中国人……。
今さら思い出すほどに、この場に飲み込まれていた。
「楽しみにしていましたよ」
「……え?」
こちらに向かって話しかけられているのが不思議なくらいだ。
「阿佐子さんに素敵な友人がいらっしゃるというので」
阿佐子は得意そうにその人のお猪口に酒を注いだ。
「え、ああ……い、いえ、そんなっ、滅相もない!!」
「滅相もないって(笑)」
阿佐子はいつもより上品に笑った。
「そんな私、あのこんな綺麗な……初めてで、今ビックリしているところです」
「そうですか?」
優しく笑う、その笑顔を直視することも難しい。
「あなたは普段、何をしていますか?」
彼のその問いに、一瞬考える。職業を聞かれているのだろうか。
「いつもは……電気屋さんで家電製品を売っています」
「ほう……電気屋さん、ですか。私はあまり行かないので分かりませんが、どんなことをしているのですか?」
「えっと……主に、店長や副店長のサポートになるような雑用をしています。担当は特にありません。具体的にはレジをしたり、電話を取ったり、契約をしたり。だけど直接テレビやエアコンなど高価な物を売ることはありません」
今口にしてみて、ああそうか、自分はいつもこんなことをしているのだと思いなおす。
「それはどうしてですか?」
「……知識がないからです。お客様に説明できるほどの知識がないので、商品が決まった後の作業を主にしています」
「なるほど。阿佐子さん。あなたも、食事を召し上がってください。愛さんも、さあどうぞ」
あれ、この人、名前知ってるんだ……。というか、逆にこの人の名前知らない! ヤバイな……。
阿佐子が丁寧に立ち上がり、そしてこちらの隣に腰掛け、ようやく食べるのを見計らってから香月は箸を取り、無難な刺身から食べる。テーブルの上にはとにかく繊細な細工が施された彩鮮やかな料理が並んでおり、この前レイジにご馳走したような2万5千円では到底足りないような内容であることはすぐに分かる。
「香港に来たことはありますか?」
多分その人は気を遣ってくれているのだろう。食べないで、しばらく話しかけてくるつもりのようだ。
あぁ、そういえば中国人……。
今さら思い出すほどに、この場に飲み込まれていた。
「楽しみにしていましたよ」
「……え?」
こちらに向かって話しかけられているのが不思議なくらいだ。
「阿佐子さんに素敵な友人がいらっしゃるというので」
阿佐子は得意そうにその人のお猪口に酒を注いだ。
「え、ああ……い、いえ、そんなっ、滅相もない!!」
「滅相もないって(笑)」
阿佐子はいつもより上品に笑った。
「そんな私、あのこんな綺麗な……初めてで、今ビックリしているところです」
「そうですか?」
優しく笑う、その笑顔を直視することも難しい。
「あなたは普段、何をしていますか?」
彼のその問いに、一瞬考える。職業を聞かれているのだろうか。
「いつもは……電気屋さんで家電製品を売っています」
「ほう……電気屋さん、ですか。私はあまり行かないので分かりませんが、どんなことをしているのですか?」
「えっと……主に、店長や副店長のサポートになるような雑用をしています。担当は特にありません。具体的にはレジをしたり、電話を取ったり、契約をしたり。だけど直接テレビやエアコンなど高価な物を売ることはありません」
今口にしてみて、ああそうか、自分はいつもこんなことをしているのだと思いなおす。
「それはどうしてですか?」
「……知識がないからです。お客様に説明できるほどの知識がないので、商品が決まった後の作業を主にしています」
「なるほど。阿佐子さん。あなたも、食事を召し上がってください。愛さんも、さあどうぞ」
あれ、この人、名前知ってるんだ……。というか、逆にこの人の名前知らない! ヤバイな……。
阿佐子が丁寧に立ち上がり、そしてこちらの隣に腰掛け、ようやく食べるのを見計らってから香月は箸を取り、無難な刺身から食べる。テーブルの上にはとにかく繊細な細工が施された彩鮮やかな料理が並んでおり、この前レイジにご馳走したような2万5千円では到底足りないような内容であることはすぐに分かる。
「香港に来たことはありますか?」
多分その人は気を遣ってくれているのだろう。食べないで、しばらく話しかけてくるつもりのようだ。