絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ
「いえ、ありません」
「良い所ですよ。日本も良い所ですが。
是非いらしてください。その時には必ず案内しましょう」
その人はにっこり笑って微笑む。
「あ、はい。ありがとうございます……」
食事も喉に通らないのが非常に惜しい。
「明後日までいらっしゃるんでしょう?」
阿佐子は甘えた声で聞いた。
「いえ、明日に。急ぎの用ができてしまって」
「そうなんですの……残念ですわ」
阿佐子は言葉そのままの表情でしゅんとなった。
こんな阿佐子を見たのは初めてだった。確かに、そうなっても頷ける相手ではある。
「それにしても、魅力的な方ですね……」
その人は阿佐子から視線を外し、こちらを見つめ始めると、肘をテーブルについて、手を組み、その上に顔を乗せた。
「ええ、そうでしょうね……」
阿佐子はこちらを見ない。
「え……」
明らかな阿佐子の不機嫌さに戸惑いながら、返す言葉を懸命に探す。
「もしよろしかったら、何かプレゼントをさせていただけませんか? お会いできた印に」
「え?」
初めて聞くセリフに戸惑い、阿佐子を見た。
が、彼女はこちらに気付かない。
「何か欲しい物はありませんか? 何でも」
「えー……と、言われて、も……」
阿佐子に向かって喋る。
「頂きなさい。そうするべきよ」
彼女は飲むことに夢中なのか、こちらを見ずにそれだけ言う。
「あ、では……」
「何がいいですか?」
「何でも……」
「うーん」
その人は苦笑しながら、親指を口元にやった。
「車は何を持っていますか?」
「いえ、車は持っていません。ここでは自転車だけです」
こんなお金持ちの人の前で恥ずかしくなったって仕方ないのだが、見栄のつもりで「ここでは」とつけた。だが、実際はどこでだってまだ車は持っていない。
「では、車を贈りましょう」
「え!? 車!?」
阿佐子を見た。だが彼女は全くの無関心だ。それどころかかなり機嫌が悪い気がする。
「車なんて、そ、そんな高価な物、頂けません!!」
まあ、軽なら100万弱のもあるだろうけど……。多分、この人からすれば100万くらいはした金だろうが、こちらとしては、それに見合う何かなんてお返しできるはずもなくて。
「今の時代、車はそれほど高価な物ではありませんよ。お気になさらずに、車をお贈りしましょう」
「いえ、そんな……今日初めてお会いした方に、そんな……」
「いいのよ、頂きなさい」
阿佐子は会話を遮るように続けた。
「東京マンションまで送り届けてあげて下さい」
「東京マンションですね。楽しみにしていて下さい」
「え、あ、そん……」
「セイリュウ様直々のプレゼントなんてなかなか頂けないわよ」
様?
ってこの人一体……。
「良い所ですよ。日本も良い所ですが。
是非いらしてください。その時には必ず案内しましょう」
その人はにっこり笑って微笑む。
「あ、はい。ありがとうございます……」
食事も喉に通らないのが非常に惜しい。
「明後日までいらっしゃるんでしょう?」
阿佐子は甘えた声で聞いた。
「いえ、明日に。急ぎの用ができてしまって」
「そうなんですの……残念ですわ」
阿佐子は言葉そのままの表情でしゅんとなった。
こんな阿佐子を見たのは初めてだった。確かに、そうなっても頷ける相手ではある。
「それにしても、魅力的な方ですね……」
その人は阿佐子から視線を外し、こちらを見つめ始めると、肘をテーブルについて、手を組み、その上に顔を乗せた。
「ええ、そうでしょうね……」
阿佐子はこちらを見ない。
「え……」
明らかな阿佐子の不機嫌さに戸惑いながら、返す言葉を懸命に探す。
「もしよろしかったら、何かプレゼントをさせていただけませんか? お会いできた印に」
「え?」
初めて聞くセリフに戸惑い、阿佐子を見た。
が、彼女はこちらに気付かない。
「何か欲しい物はありませんか? 何でも」
「えー……と、言われて、も……」
阿佐子に向かって喋る。
「頂きなさい。そうするべきよ」
彼女は飲むことに夢中なのか、こちらを見ずにそれだけ言う。
「あ、では……」
「何がいいですか?」
「何でも……」
「うーん」
その人は苦笑しながら、親指を口元にやった。
「車は何を持っていますか?」
「いえ、車は持っていません。ここでは自転車だけです」
こんなお金持ちの人の前で恥ずかしくなったって仕方ないのだが、見栄のつもりで「ここでは」とつけた。だが、実際はどこでだってまだ車は持っていない。
「では、車を贈りましょう」
「え!? 車!?」
阿佐子を見た。だが彼女は全くの無関心だ。それどころかかなり機嫌が悪い気がする。
「車なんて、そ、そんな高価な物、頂けません!!」
まあ、軽なら100万弱のもあるだろうけど……。多分、この人からすれば100万くらいはした金だろうが、こちらとしては、それに見合う何かなんてお返しできるはずもなくて。
「今の時代、車はそれほど高価な物ではありませんよ。お気になさらずに、車をお贈りしましょう」
「いえ、そんな……今日初めてお会いした方に、そんな……」
「いいのよ、頂きなさい」
阿佐子は会話を遮るように続けた。
「東京マンションまで送り届けてあげて下さい」
「東京マンションですね。楽しみにしていて下さい」
「え、あ、そん……」
「セイリュウ様直々のプレゼントなんてなかなか頂けないわよ」
様?
ってこの人一体……。