絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「あんまりビール、好きじゃない?」
「それほど……。あの、ユーリさん手伝ってきます」
「メインディッシュの、おなーりぃ」
 タイミング悪く、ユーリののんびり声が聞こえた。
 ユーリは両手にオレンジ色のパスタが盛られた白い皿を乗せ、ウェイターのように格好をつけてテーブルに並べた。
「すごいですね! 上手!」
「男の手料理やけどね。まあ食べてみて」
 これで全員椅子に座り、最後のグラスにビールを注いでとりあえず乾杯ができる状態になる。
「何の乾杯でしょう?」
「そら、出会い? 俺らの出会いに乾杯!」
 香月は吹き出す。
「何が面白いん? んなおかしいないで」
「そうですね(笑)」
「いや、笑うてるやん顔が」
 レイジは何にも突っ込まず、静かに飲んでいる。
「ユーリさんはギター……でしたっけ?」
「うんそう。バンドメンバーは、俺ともう一人ギターとベースとドラム」
「バンドメンバーっていうのは。えーっと、CDとかではレイジって名前じゃないですか。あれは本当は一人じゃなくてグループ名だったんですか?」
「いや違う。レイジのバックバンドっていうのはね……、まあ、要は縁の下の力持ちってことよ。意味、分かる?」
「……なんとなく」
 香月は首を傾げながらとりあえず返事をした。
「そうそう、これから敬語とか使わんでええよ」
 香月は今の気持ちを大事にしようと、一瞬でここに住むことを決めた。
「でも、私の方が年下ですよね?」
「いくつ? あ、いや、そりゃ年下よ。間違いなく!」
 彼は慌てて笑った。
「私は24です」
「そやなあ。それくらい若いよなあ。俺は35やから一回り違うんか。これからジェネレーションギャップを感じるんやろなあ」
「そんなことないですよ(笑)。レイジさんも同じくらいですか?」
「うん一緒」
 2人でレイジを見た。
「敬語じゃなくてもいいよ」
 レイジはユーリと同じことをもう一度言う。
「……慣れれば」
「そう?」
 レイジは言いながら、早くもビール瓶を傾けた。
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