絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 白のBMWで会社に行くということがこれほど目立つことだと、香月は全く予想していなかった。BMWの頭文字がどんな意味なのかも知らない、車そのものに興味がない香月には「宝の持ち腐れ」という言葉が非常に似つかわしい。
「あの車どしたの!?!?」
 出勤するなり玉越と西野に同時に詰め寄られた。
「……もらった」
「もらったぁ!?!?」
 ちょっ、声でかい。
「おい、あのBM誰のだ?」
 この焚き火に寄って入ってきたのは矢伊豆だ。
「……」
 玉越は何も言わずに驚き顔のまま香月を指す。
「おー、すごいな。全額ローンか?」
「ちちちちち、ち、待て」
 西野は何を制したいのか、右手を相撲取りのように突き出す。
「何?」
 矢伊豆はその無意味な動きに顔をしかめた。
「あれ、まだ発売してないだろ? 確か、あのモデルは12月からのはずだ」
「買いもしないのにそんな知識は豊富だな」
「ちっ、違うんすよ、そりゃ買わないけど、あれだってまだ試作とかの段階だって確かテレビで……」
「さぁ……?」
 香月は肩をすぼめて応える。
「もらったんだって」
 玉越は矢伊豆に説明した。
「えー!? すごいなぁ!!」
「誰に?」
 西野の質問はとても分かりやすい。
「えーっと……」
 3人は息を呑み、それぞれ妄想する。
「……知らない人」
「っ、んな、ことあるわけねーだろぉ!」
 何故か西野は必要以上に興奮している。
「分かった。知られたくない相手なのね」
 玉越は何か勘違いをしている。
「俺も誰か車くんねーかなぁ」
 矢伊豆は人のことなどどうでもいいようだ。
「実際どうなんだ? そんな発売前の車くれるなんてどっかのお偉いさんか何かだろう?」
 西野のその予想は少なからず当たっている、が。
「うんまあ……、友達の知り合いで、外国の人がいて。その人が……」
「そういえばお前、この前誕生日だったな」
 西野は顎に手をやり、顔を顰める。
「先月じゃん、それ。けど納品にそれくらい時間かかるか……。誕生日プレゼントにBM……」
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