絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 玉越は唸って考える。
「世の中間違ってる……」
 西野は頭を抱えた。
「いや、あの、誕生日プレゼントとは言ってないけど、なんか、出会った印に……って」
「私に紹介しろ」
「いや、俺に紹介してくれ」
「あんた男じゃん!! ねね、やっぱカッコいいの? どんな人!?」
「そんな聞いたって無駄じゃん」
 西野は玉越に呆れてみせる。
「うん、中国人だから黒髪で……けどすごい綺麗な人だった。びっくりするくらい」
「うわぁ……何してる人?」
 まさかここで、人を海に沈めているとは言えない。
「うーん。貿易みたいな感じかな」
 濁すに限る。
「……死ぬ」
 玉越は目を閉じた。
「玉越、中古の軽なら俺でも買えるぞ」
 笑う矢伊豆の側で、
「そんなもん自分でも買えますよ!」
 玉越は所構わず怒りを露にする。
「おーい、あ、誰か知らないか? 駐車場に無断で車を……」
 遅れて宮下がグッドタイミングで入ってきた。
「白のBM?」
 玉越が聞く。
「あぁ、あそこは誰も登録してないんだが」
「ビックリしてください。あれは香月さんが海外のお金持ちに見初めてもらった出会いの印のプレゼントです」
 一旦間が空き、
「……何の話だ?」
 宮下は当然ながら怪訝な顔をする。
「普通は信じられないですよね、そんなドラマみたいな話。ドラマでもなかなかないよ。現実味がなさすぎて」
「え、あれは香月の車なのか?」
「あ、はい。今日登録しようと思って、とりあえず乗ってきました」
「ああ、別に構わんが……。後で登録用紙渡すから……。で、海外のお金持ちっていうのは?」
「だからもう……あぁ、……めまいがする」
 玉越はまた大袈裟に目を閉じてふらついた。
「要するに、あれはプレゼントでもらったものなんすよ。しかも、まだ未発売の車」
 西野は自信をもってしっかり発言したが、
「……へぇ」
「感動薄ー!」
 2人は同時に発した。
「まだ未発売のパソコンだってうちにあるじゃないか」
「まあ、そう考えたらあれですけどぉ、ほら、一般の人は買えないじゃないすか」
「まあそうだな」
 宮下はすぐにその場を去った。
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