絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 確かに、今は普通のマンションしか買えないでしょう。だけれども、私はいずれ出世し、あなたは夫人になり、子供は恵まれた存在になる。
 完璧ではないでしょうか。
 初めて見たとき、こんなに美しい人がこの世に存在するのかと思いました。信じられない。何度寝たってその表情を忘れはしません。
 あなたのその美しい顔が見られるのなら、私は死んだって構わないと思うくらいです。
 あなたにはそれだけの価値がある。
 少なくとも、私の命をかけられる価値はあります。
 あなたの美しいその顔をもっと近くで見たい。
 そんな気持ちで私の宝物を一緒に送ります。
 色々考えました。
 だけれども、100万の指輪にかなう宝だと気付き、それにしたのです。
 どうか私を感じてください。
 そして、いずれ。本物の私を感じてください。 敬具』
 読んですぐに残りの宝という物を確認した。
 ダンボールの中にもうひとつ箱がある。
「……中は、見た?」
「見ました」
 香月は視線を落としたまま、泣きそうな表情をしている。
「見ていい?」
「……はい」
 文章でそういいながらも、結局100万の指輪にしたのではないかと思うような外観だった。水色の、丁度指輪が入りそうな小箱。
 そっと蓋を開ける。
 それは宝にしては随分安いビニール袋に入れられていた。
 信じられないその神経。
 これはヤバイ。
「……警察に届けた方がいい。その、連れ去りと関連している可能性が高い」
 その忠告を聞いてか聞かずか、
「……それは、何でしょう?」
 ビニール袋の中身のことを聞いているのだ。
 しかし、香月も大人だ。多分分かってはいる。
「調べないとちゃんと分からないが、多分精液だろう」
「……」
 確信をした香月の表情が固まった。
「香月、俺は本当に危ないと思う。いいか、帰りは必ず車でまっすぐ家に帰れよ。どこにも寄らない方がいい。車まで行く時も誰かと一緒に行こう」
「あの、このことは、誰にも……」
「あぁ、分かっている。俺も今のところは誰にも言わない。だから、駐車場までいくときも、誰もいなかったら俺を呼べばいい」
「……」
「……大丈夫か?」
 顔が真っ青になっている。少し脅しになってしまったか。

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