絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ
「そうか。今日は送ろう。明日迎えに行くから。で、警察の帰りに自分の車で帰るか?」
「はい」
その即答に、自分はこんなに信頼されていたのだと、少し驚く。
「……そうしよう。その方が安心だ」
「はい……、じゃあ、失礼します」
彼女は肩を落としたまま、ダンボールも手紙もそのままに店長室を出た。
今までもストーカー被害が店で発生したことがあるが、ここまで陰湿ではなかった。
ったく、こんなときにレイジは一体何をやってるんだ……歌など歌っている場合ではないだろうが。
その後の午後はゆるやかに流れたが、帰り支度をする頃に、ふと香月のことを思い出した。そうか、乗せて帰るんだったっけ。
従業員を全員出し、最終確認をして廊下に出ると、裏口で矢伊豆と香月が談笑をしていた。一瞬、頭を回転させる。
なのに、近づいても矢伊豆は何も言わない。あぁ、しまった、勘違いをされたのか。
「じゃぁ、お疲れ様でした」
鍵をかけるなり、矢伊豆はすぐにその場から離れた。しかも、何も言わず。しまったな……。まあ、彼のことだから心に留めておくとは思うし、余計な気も遣わないだろうが、少し落ち着かない。
2人はただ無言で宮下の白のスカイラインに向かって歩き始めた。
矢伊豆の車はすぐに駐車場から出て行く。
「矢伊豆副店長、何も言いませんでしたね」
助手席に乗り込むなり香月は口を開いた。
「香月にも?」
「はい。何か言われたら、車が故障したって言おうと思ってました。けど、何も。あそこでずっといたんですけど、何も言いませんでした」
「勘違いされたな……」
「やっぱり」
「でも大丈夫だよ、あの人なら。それに、本当にただの勘違いなんだし。まあ、そもそもそんな他人のことなんか、何も気にしてない気がするけどな」
「あ、分かります、その感じ(笑)」
「レイジさんはどうなんだ?」
「え? 何がです?」
しらばっくれているのかと、少しムッとした。
「レイジさんは……忙しいか。送迎なんてできるような暇ないかな」
「さあ、知りません。どちらかというと、レイジさんのバックバンドの人の方が暇そうなので頼めばしてくれそうですけど……」
「え、だって。レイジさんとは付き合ってるんだろう?」
「はい」
その即答に、自分はこんなに信頼されていたのだと、少し驚く。
「……そうしよう。その方が安心だ」
「はい……、じゃあ、失礼します」
彼女は肩を落としたまま、ダンボールも手紙もそのままに店長室を出た。
今までもストーカー被害が店で発生したことがあるが、ここまで陰湿ではなかった。
ったく、こんなときにレイジは一体何をやってるんだ……歌など歌っている場合ではないだろうが。
その後の午後はゆるやかに流れたが、帰り支度をする頃に、ふと香月のことを思い出した。そうか、乗せて帰るんだったっけ。
従業員を全員出し、最終確認をして廊下に出ると、裏口で矢伊豆と香月が談笑をしていた。一瞬、頭を回転させる。
なのに、近づいても矢伊豆は何も言わない。あぁ、しまった、勘違いをされたのか。
「じゃぁ、お疲れ様でした」
鍵をかけるなり、矢伊豆はすぐにその場から離れた。しかも、何も言わず。しまったな……。まあ、彼のことだから心に留めておくとは思うし、余計な気も遣わないだろうが、少し落ち着かない。
2人はただ無言で宮下の白のスカイラインに向かって歩き始めた。
矢伊豆の車はすぐに駐車場から出て行く。
「矢伊豆副店長、何も言いませんでしたね」
助手席に乗り込むなり香月は口を開いた。
「香月にも?」
「はい。何か言われたら、車が故障したって言おうと思ってました。けど、何も。あそこでずっといたんですけど、何も言いませんでした」
「勘違いされたな……」
「やっぱり」
「でも大丈夫だよ、あの人なら。それに、本当にただの勘違いなんだし。まあ、そもそもそんな他人のことなんか、何も気にしてない気がするけどな」
「あ、分かります、その感じ(笑)」
「レイジさんはどうなんだ?」
「え? 何がです?」
しらばっくれているのかと、少しムッとした。
「レイジさんは……忙しいか。送迎なんてできるような暇ないかな」
「さあ、知りません。どちらかというと、レイジさんのバックバンドの人の方が暇そうなので頼めばしてくれそうですけど……」
「え、だって。レイジさんとは付き合ってるんだろう?」