絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 その火曜日に2人で警察に届けて、水曜日昼から出社、木曜日また休んで金曜日に朝から出社した。
 10時からの開店準備で慌しい午前9時25分。詰まっている仕事があるわけではなかったが、西野の呼びかけに、ようやくそのことに気付く。
「あれ、香月さんまた休みですか?」
「え? 昨日も休みだったのか?」
「なんか、連絡がとれなくて、無断欠勤って……」
「連絡が取れない?」
 つい真剣な顔をしたため、西野が逆に驚いた。
「え?」
「あ、いや、……連絡が取れないって言うから。不吉な感じがするじゃないか」
 少し笑って濁す。
「いやでも……あ、松岡副店長」
 横からひょっこり松岡が現れる。
「何?」
「香月さん、昨日結局連絡とれなかったんですよね?」
「ああ、そうそう。昼からの出勤になってたんだけど来ないし、携帯鳴ってるんだけど出ないし……」
「ずっと?」
「はい、俺夜も電話したけどしばらく鳴って、留守電にはなるんですけど」
「で、今日も来てないんです。今日も朝とりあえず連絡はしたんですけど」
 松岡も、不思議そうな表情を見せた。
「調子悪いんですかね?」
「いや……家族に問い合わせてみる。松岡副店長、ちょっとお願いします」
 焦る自分をどうにかしなければと思ったが、頭の中が既に不吉なことでいっぱいになっていた。
 こんなときに限って笑顔の香月が頭をよぎる。
 ばかな……そんなはずはない。
 フロアから廊下に出るのも待たずに、以前登録しておいたレイジの電話番号をすぐに液晶に出す。
 祈る気持ちで5回コールを聞いたあと、一旦無音になったことにとりあえずの安堵。
『もしもし?』
「もしもしすみません、エレクトロニクスの宮下です」
 長い説明などしている場合ではない。
『はい』
「すみません、香月さんどうしてますか?昨日無断欠勤したそうなんですが」
『え? ……いや、すみません、僕今海外なもので……無断?』
「はい。あの、香月さんから何か聞いていませんか?」
『いえ……何も』
「あの、今日本にいる家族の方はいますか?」
『いえ……。でも、マンションの管理人に聞いてみましょうか?』
「お願いします。折り返ししてもらえますか? どちらにしても、一応連絡ください」
『はい、では』
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