絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 レイジも妙なことに気付き始めたのだろう。電話はすぐに切れ、そして5分しない間に再び携帯にかかってきた。
『もしもし、レイジです』
 レイジが以前CMでそんなセリフを言っていたことを思い出し、一瞬想像してしまったせいで少し緊張が和らぐ。
「はい。どうでした?」
『最後に玄関の電子ロックを解除したのは火曜の朝だそうです』
「火曜? そんなに前……」
『でも、ロックが解除されたのがその日というだけで、もしかしたら部屋にいるかもしれないというので、今管理人の人に……あ、すみませんキャッチです。一旦保留にします』
 こちらの返事を待たずに、音楽が流れ始めた。クラシック音楽。だが頭は余計なことに回転し、ちっとも落ち着かない。
 そのまま、長い長い3分が経過して、また低い声に変わった。
『もしもし』
「はい」
『おかしい。今、中も見たんですが、家にはいません』
「香月さんからお伺いしているかもしれませんが、月曜日、私のところにストーカーまがいの相談がありました」
『ストーカー?』
「先月、祭りの日に車に連れ込まれそうになった、と」
『いえ……何も聞いていません』
「そうこう話をしているうちに店に荷物が届いて」
『荷物?』
「中にはその……ストーカーらしい歪んだ……好きだとか家庭を作りたいとかいう手紙と、ビニール袋の中に、精液と思われる液体が入っていました」
『……』
「それを火曜日に警察に届けました。それで……そう。車なんですが、月曜に話を聞いた段階で危ないと思ったので、僕が帰りに送りました。で、火曜日、迎えに行って警察に行って、その昼過ぎにBMで帰るところを見届けました。……で、木曜の昼から出社予定になっていたのですが、昨日は来なかったようです。連絡しても出ない」
『警察に連絡してください』
 レイジの意見は冷静で的確だ。
「分かりました」
『もう20過ぎてるから、捜索とかしないかもしれない……。
 すみません』
 レイジはそこで一旦区切った。
『僕は今どうしても帰ることができません。だけど彼女は大切な家族です』
「分かります」
『お願いします』
「分かりました。まず警察に連絡をします」
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