絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「契約してもいいかなと思っています。
だから、買い物してきますね。歯ブラシとか、泊まれるように」
 レイジを見るのが怖くて、じっとユーリを見つめた。
「ああっ…そ、そう?ならえんやけど……」
 ユーリはレイジを見る。
「とりあえず、買い物行こうか」
 レイジは立ち上がった。
「だっ、大丈夫ですよっ、1人でも!」
「危ないで」
 やはりユーリが心配してくれる。
「僕が運転するよ。コンビニだとあんま商品ないからスーパー行こうか」
「いかんいかん。飲んでるやん」
「女の子の1人歩きの方が危険」
 レイジは言い切ったが、飲酒運転の方がよっぽど危ない。
「そうやけど、運転はあかんわ。ええよ。俺自転車で着いて行くし」
 よしきた!
 香月はユーリと目を合わせる。
「いい、僕が行く。ちょっと夜風に当たりたいから。僕が自転車で行く」
「自転車でも一応飲酒になるから気ぃつけた方がええよ」
「わーってるよ」
「あそこ行くんやろ? 24時間のスーパーみたいなとこ」
「うん。自転車だったら5分でしょ」
 男2人の話はまとまったが、香月ははっと気づいた。
「待って! レイジさん、目立ちません!?」
 テレビで見るような洒落た格好ではないが、それでも、これだけメディアに出ていれば気づかないとは言い難い。
「案外平気なもんだよ」
「こんな時間やしいけるんちゃう?」
 そんなもんなのか……。
 香月はバックを取り、出る準備をする。店内を一緒に回った場合、もしかしたらお金持ちのレイジが支払ってくれる可能性もあるが、財布を持たないわけにはいかない。
「じゃあ、行ってきます」
 香月はユーリに言う。
「行ってらっしゃい。気ぃつけてね」
 ユーリは普通に返事をしてくれて。それがものすごく安心した。
 2人は部屋を出てエレベーターを降りる。その間、レイジはため息ともとれるような「あぁ……」とかなんか微かに聞こえ、それが密室で2人きりだと怖い。
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