絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 宮下は優しい。部下に信頼されている。人望も厚い。それに仕事ができる。まだ若いのにエリートで早出世で有名だ。だけどそれを鼻にかけない性格も人気がある。
 気持ちが格段に現実に近づいた。
 そうだ、西野に連絡をした方がいいな……。
 ついでにしてしまおう。
 着信履歴の中から選ぶとすぐにボタンを押す。
 相手は2回コールの後すぐに出た。
「ちょっと待てよ……」
 それだけ言うとすぐ雑音に変わった。店内の音楽が微かに聞こえ、突然懐かしくなる。
「もしもし?」
「もしもし……」
「元気だったか!? 体調悪いって聞いてたけど、突然だったし連絡がつかないから、何かあったんじゃないかと思って心配してたんだよ」
「ごめん。……」
「どこか悪かったのか?」
「……」
 今、西野にそんなことを説明できるような余裕はない。
「……いや、元気ならいいんだけど……」
「うん、元気は元気」
「そっか……。あ、そうだ。明日さ、皆で集まるんだけどどうかな? まだ無理っぽい?」
「どこ行くの?」
「とりあえずカラオケなんだけど……」
「うーん……」
「飯行ってからカラオケだから。飯だけでもよかったら行く?」
「そっか、そうだね」
「行く?」
「うん、行く」
「っしゃ♪皆に連絡しとく」
「皆って誰?」
「吉原と、永作と佐伯。玉越がいないから静かだよ(笑)」
「(笑)。何時?」
「11時……迎えに行こうか?」
「うん」
「分かった。東京マンションだったな」
「11時にエントランスで待ってる」
「あぁ、分かった。じゃ、な。俺今、商談抜け出してきたから……」
「早く行って(笑)」
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