絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「……え」
「昼間なら行けるんだろ?」
「……うん……そうね。仕事がない日なら……」
 女は外見相応の花屋にパートで勤めていた。大学を卒業してすぐに企業の事務に勤めたが、合わなくて転職したようだった。
「けど花屋って、なんか、似合う」
 なかなか照れる言葉ではあったが、まっすぐ前を見て言った。
「そう?」
 女は照れて頬をピンク色に染めた。
 その、いつも白い肌がピンク色に染まる。頬だけではない、きっと体のあちこちが、あるいは全体がピンク色に染まるはず。
 女の扱いは慣れている自信があった。テクニックにもそれなりに持っているつもりである。
 だが今回は急くつもりはなかった。順序を踏んで、ものにする。最後まで行き着いてみせる。
 そのつもりだったのだが、意外にも2度目のデートで
「今日は両親が旅行でいないの。こんなこと、本当に滅多にないのよ」
 とにこやかに笑い、バーで飲んだ。女はとても嬉しそうであった。柔らかに微笑み、また少し頬をピンクに染めて、唇を液体で潤わせる。そんな間接照明に照らされて陰ができた鎖骨、その下の膨らみが、気にならなかったといえば嘘になる。
 だがまさかここでホテルに行くなど、言い出そうとはこれっぽっちも考えていなかった。
 誓おう、こちらからは決して誘ってはいない。
「次……いつ一緒にいられるかどうか分からない……」
 バーを出て、夜道を散歩しながら女は突然神妙な顔つきで喋り始めた。
「どうして?」
「夜、って意味ね」
「あぁ……」
 少し、迷う。
「……どこかに……どこかで……」
「分かった。行こう」
 初めて触れたその手は、予想通り少し小さい。
 手を引いて少し歩いてから、一歩離れてタクシーを拾った。
 シティホテル。一度利用したことがある。手をとる前からそこにしようと決めていた。
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