絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 女は驚くほど淫らであった。いつもの、この手が花屋で可憐な花の世話をしているとは思えないほどに。
 妖艶で艶やかで、最高であった。
 天性というやつだろう。
 若さにまかせて、何度も望み、次の日仕事にもかかわらず、朝まで眠ることはなかった。
 最中、「好きだ」と告白をした。しておかなければいけないという気持ちは確かにあったが、それよりも、この経験したこともない強い集中力とムードに完全にはまった気持ちの表れ、というのもある。
 女は少し笑んだが、また顔を歪めた。
 その1回をきっかけに、女は少し大胆になった。
「……ねえ……どこか……」
 朝10時に待ち合わせをして、そのまま誘うこともしばしばだった。
 大抵、女から誘ってきたと思う。それに負けじと、早めにタイミングを見計らってキスをしかけたりしたが、女はその期待に十二分に必ず応えてくれた。
 一見、真面目そうな、おしとやかな花屋の女が、まさかこともあろうに自ら誘いをかけてくる……。
 性欲の強い女なのだろう。その時はそのギャップが楽しくて仕方なかった。
 女は夜出歩くことをあまり好まなかったので、昼間ホテルに入ることが多かったが、それもそのギャップを後押しするようで、気がつけば3ヶ月、4ヶ月で見事にその手に落ちていたのである。
 色々なセックスをした。これも驚くことに、恥ずかしがりながらも、道具の要請などをしかけてくるため、その度に悦ばせ、また、その期待を上回ろうと様々なサイトを漁り、適度なものを実践していった。
 好きだった。
 ほとんどベッドでしか過ごさなかった2人だが、愛ゆえのことだと心から信じていた。
 2人の仲は冷めることはなかった。特に、女へのその愛情がやまらなかった。
 29歳。やはり、結婚するのはこの女だと、そろそろ本腰を入れようとした頃。
 ある、一本の電話が会社に入った。いつものようにトランシーバーで呼び出しを受ける。
「吉田様という男性のお客様からお電話が入っています」
 女の姓であったので一瞬ドキッとするが、男性ではない。何の商談だったか思い出しながら、軽く電話に出た。
「もしもし」
「もしもし? 宮下さん?」
「はい」
「ちょっと出て来てもらえるかな」
「……あの、どのようなご用件でしょうか?」
 相手の男は中年のクレーマーだと感じた。
「言わないと分からない? 僕の奥さんのことなんだけど」
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