絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「好きと奪うは違う」
「(笑)、じゃあ、忘れろ」
 今でこそもう、女のことは思い出さなくなった。
 遠い、昔の、話……。
 ピンポーン。
 ピンポーン。
 ピンポーン。
 ……イタズラか?
 閉じていた目を開いた。玄関のインターフォンが連続で3回も鳴る。
 熱がもう下がったが、また動くのが面倒なので居留守でいいやと寝込みを決めた。
 とたん、携帯が鳴る。
 西野からだ。
「もしもし」
『もしもし、あ、お疲れ様です』
「あぁ……何?」
 後ろで女の笑い声がする。
『あの……今、自宅にいますよね?』
「うん」
『さっきからインターフォン鳴らしてるんですけど……』
「お前か!?」
『いや、心配だから皆で見舞いに来たんです……』
 どっと疲れたが、半分嬉しくもある。こんなこと、今までに一度も経験がない。
「後ろの笑い声は誰だ……」
 苦笑を隠しながら聞いた。
『佐伯と、吉原と永作と、香月もいます』
「香月?」
 大丈夫なのか!? と言いそうになってグッと堪える。
『はい、あの……いいですか?』
「ってもう来てんだろ……。開けるよ」
 すぐに電話を切って玄関へ向かう。パジャマに無精髭だが、病人だから仕方ない。
「お邪魔しマース」
「お疲れ様でーす」
「うっわー、すごい綺麗!! あ、お疲れ様です(笑)」
「お久しぶりです」
「あぁ、なんだ突然……」
 5人はどやどやと玄関で靴を脱ぎ始める。
「お見舞いでーす」
 一番若い佐伯がスーパーの袋を見せた。
< 211 / 314 >

この作品をシェア

pagetop