絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「なんか食うもんがいるかなーと思って……」
 様子見の西野。
「あぁ……まあいいよ」
「というか、めっちゃくちゃ綺麗ですよねー。モデルルームみたぁい」
 佐伯は窓の外の景色をはじめ、室内をジロジロ見ているが、多少散らかっている程度で、さすがにリビングにやばい物は置いていない。
「うわー、宮下店長もゲームするんですね!!」
「あ、それ貰い物」
「えー、いいなー。してもいいですか?」
 そんなことを堂々と聞ける佐伯は大物だ。
「いいよ」
 しかし、こんなセリフ、多分香月がいなかったらしなかっただろう。
「え、ほんとに!?」
「もう熱も下がったし。なんか作ってくれるんだろ?」
 一言も喋ってはいないが、なんとなく吉原を見た。
「あ、はい。米とか……作れる程度には買って来ました」
「吉原が作るのか?」
「多分……」
 吉原はその役に自分でも疑問を抱いているようだが、一番的している気がした。
「いいよ、キッチン適当に使って。何もないけどな」
「はい」
「じゃあ、俺はもうちょっと寝るから……」
「えっ!?」
 既にテレビのリモコンの操作をしていた佐伯がこちらを振り向いた。
「いいよ(笑) 、飯、楽しみにしてるから。それまで適当に居たら?」
「でも……」
「ここまで上がりこんだんだから後はもう一緒だよ(笑)。出来たら呼んで。昼何も食べてないから」
「あ、はい」
 吉原の誠実な声を最後にリビングを後にした。しかし……。香月は少し痩せたか? 顔色が悪いのか……。
 いやその前に。あえて知らないふりをしたが、永作の衣装はいつもの通りにすごかった。ここを、どこか夜の店と間違えているんじゃないかと思うほどに派手で個性的だ。昨年、あれで社員総会に出られたときは、しまったと思わざるを得なかったが、社長の「個性を大切にする」という言葉に救われ、どうにか生き延びたと思っている(自分が)。
 大勢の客が来たことに少し興奮したせいで、余計体がだるくなった気がする。少し、寝よう。
「宮下店長」
 そう思っていたはずなのに、意識を失う前に外からの声で目を開いた。
「……はい」
「ご飯、できました」
「あぁ……」
 手際がいいのか、まだ時間は30分しか経っていない。
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