絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「レイジさんのベッドで眠りたいとは思わない。だからって、ユーリさんのベッドで眠りたいかって言われたら、そうじゃない。部屋があそこだから、あそこで寝るだけで。今はそんな強い気持ちを持てない。私……」
 そこまで言うと、耐えかねて、また頭をベッドに落とした。
「多分やっぱり、疲れてるんだ……」
「事件のせいで?」
「……確かにきっかけはそうかな……」
「大丈夫?」
「うん……。仕事も行き始めたけど、なかなか思うようにいかないし……。私、今までどうしてたんだろう、とか……」
「休養した方がいいんじゃない?」
「うーん、だけど仕事、好きだから……」
「そっか……」
「うん」
 そして再び目を閉じる。
「ありがとう。私、甘えてる……。ごめん、傷つけてる?」
「……ちょっとね……」
 彼も素直に応えて、笑う。
「やっぱり、私、この家を出ようか……」
「行くあてあるの?」
「ない……こともないような、ないような、あるような」
「ここに居た方がいいよ。なんなら僕が出て行くから」
「……出ていくの?」
 香月はレイジを見た。
「出て行った方がいい?」
「……ううん、このままでいいと思う」
「今の、このままのような関係でいてもいい?」
「(笑)、別に、私は普通だよ。レイジさんだって、きっと、同じだよ。私と接するのも、他の女の人と接するのも差はないよ」
「違うよ、全然」
「そう? だから、私に抱きついたりするけど、例えば、受け入れてくれる人なら同じことするんじゃない?」
「そんな風に思ってたの?」
「……まあ……」
 だから、レイジのことを受け入れられないのかもしれない、と思う。たぶんきっと、芸能人という華やかさが自分には合わないのだ。
「ショックだなぁ……一年分ショック受けたよ」
「(笑)、じゃぁ、もう1年ショック受けなくていいね」
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