絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
宮下はスタッフルームに戻りながら大きな溜息をつく。
 それにしても、そのために離婚したというのは本当だろうか。もしかしたら、全く別のことで離婚したことを後で香月のせいにするためにわざわざ自分に報告にきたのではないか……。
 冷静に考える。
 後者の方が可能性は高い。
 例えば、全く別のこと……DVで離婚されたが、慰謝料のことで揉めて、実は香月という好きな人、もしくは親しい人がいたからだ……ということにする。慰謝料の額は少し、下がるのかもしれない。
 でなければ、それくらいの理由がなければわざわざこんなところまであんなものを持ってきてまで、報告するようなことではない。
 結局、さっきのやりとりで、それほど怪しい人物ではないと判断した結果でもあった。普通の昔やんちゃだったバツ一の兄ちゃん、ということである。しかも、ちょっと頭の回転が利く気がした。
 宮下はさっと空の弁当をゴミ箱に捨てると、頭を切り替えてスタッフルームを出た。

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