絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「どうした、どうした?」
 本日も午後二時頃になるとスタッフルームの一角は仲良しが集い始める。
 珍しく西野は、和風弁当片手に香月の隣にドンと腰掛けた。
「全然食べてないじゃん」
「……」
「調子悪い?」
「……」
 食事休憩に入ったものの、パンとジュースを目の前にぼんやり肘をついている香月に話しかける様子はいつもと変わりない。
「……相談、乗ってくれる?」
「うん? うん……。何? 何のこと?」
「……しごと」
 香月は大きな溜息をつく。
「まだ調子悪い?」
 西野はそれに構わず弁当の蓋をあけ、箸を割った。
「最悪」
「どうした?」
「うーん……」
「じゃあ、帰り飯でも行く?」
「だけど今日一日が持たない……」
「えー? 今聞こうか?」
 西野は周囲を伺いながら言う。
「心が……重い」
 香月は西野の目を見て真剣に言ったが、彼は噴出す。
「ブッ……」
「本当なのよ……心が重いの……」
「仕事の何なんだよ?」
「……まあ、いいや。帰り話す」
「あ、どーせだったらBMのっけてほしいなー」
「えー、自分で運転って気分じゃない……」
「あ、そう? ……じゃあいいよ、俺のでよければ」
「うんもう食欲自体なくてさ」
「大丈夫かよー」
「あ、今日早いんだよね」
「うん、6時上がり」
「じゃぁ私も6時上がりにしてもらお……」
「マジで!?」
 香月が仕事を好きだということは、よく感じていたので、さすがの西野も深刻なことに気付く。
「うんもうね……まあいいや……私、そろそろ休憩終わるから……」
「おぉ……」
「後で矢伊豆副店長に6時上がりにしてもらうように言っとくから」
「あぁ……」
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