絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「そもそも、なんでそこでそんなに飲むんだよ」
「そんな飲んでないつもりだったんだけどな……何か注文してくれたのを飲んだ。で……朝になっても、付き合って欲しいとか……」
「断れなくて、うんって言った?」
「ううん、それはさすがに。少し考えさせてくださいって保留にしてある」
「そこはよくやったな」
「うん!」
 香月は目を見開いて、首を縦に一度振った。
「……でもなぁ……」
「うん……どうしたらいい? きつく、付き合いませんって電話した方がいい?」
「うーん……こっちからはアクションしない方がいいな」
「……うーん……」
「あれかなぁ……やめさせるのが一番いい」
「えぇ!? どうやって」
「宮下に言えば一発だろ」
「え……」
「宮下店長に、こんなことがありましたって報告したら、すぐに首切ってくれるよ。もうエレクトロニクスこなくていいですって状態に。携帯は、新しく変えた方がいいかな」
「……うらまれないかな……」
「それもある、けど、このままズルズルいくよりはマシだろう。宮下ならうまいことやってくれるんじゃね?」
「さあ……」
「大丈夫だと思うよ。……って今連休か。実家の葬式だっけ」
「うん……。えー……やだなぁ……」
「何が?」
「言った方がいいとは思うけど、言うのが嫌だ」
「何で?」
「うーん……」
「お前が誘ったんじゃないのか、とか言われそう? それはちょっとあるんだよな。香月が断ってないから、誘ったらついてきたのに、俺に何の非があるんだ! とかってなったらなあ」
「いやあ……うーん……」
「何を悩む必要があんだよ(笑)」
「やだなぁ……」
「宮下に知られるのが?」
「えー……うーん……」
「何? 宮下のこと、好きなの?」
 西野的には、質問の核であったが、香月はいとも簡単に
「違うよ」
「……」
「そんなんじゃないんだけどさぁ……。色々……お世話になってるからなぁ……あんまり個人的なこと、もう話したくないなぁ…」
「香月のこと知りすぎたって何も思わないよ。それより、後になってことが大きくなってからだと、どうして早く言わなかったんだってなるよ。今の保留がもし押し切られたら、ヤバイと思うな」
「えー……うーん」
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