絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「俺から言ってもいいけど……そういうことじゃないんだろ?」
「うん……」
「頑張って言え。何か聞かれたらな。無理ですって」
「……うん」
「できる?」
 あまりにも煮え切らない香月に、西野は顔を覗き込んだ。
「……できないこともないと思う。直接言った方がいいかな……電話は無視しようか。だいたい毎日会うし」
「そうだな……電話だと逆に押し切られる可能性がある。断れないだろ?」
「……うん……いや、断る」
「よし。じゃあ、飯行くか!」
「そうだね。何か食べる」
「どこがいい?」
 西野がラーメン好きなのはよく知っている。
「ラーメンでいいよ」
「いや、香月が食べたいものでいいよ(笑)」
「ううん、今はラーメンでいい」
「あ、そう?」
 西野は機嫌よく、アクセルを踏む。
「で、離婚したって子供は奥さんの方なんだろ?」
「みたい……うん……まあ、今日はラーメン食べて寝るよ」
「(笑)、ほんと、大丈夫か?」
 西野は噴出して、香月を見た。
「うん、だってさ、私、レジ外されて倉庫に行ったのに、倉庫にいられなくなったら、どこに行くと思う?」
「あぁ。宮下に言いたくないのはそこか」
「……それもある」
「いいじゃん、売り場行けば」
「売れないよ……そもそも、フリーがダメだし。掃除とか言われたらどうしよう。この店は香月がいるから掃除婦いりませんって」
「別に他店でも本社でもどこにでも行く場所あるじゃねえか。掃除婦にこだわらなくても」
「遠いよ……」
「じゃあもう、きっちり断るしかないな。で、倉庫はさっさと片付けて売り場でピッキングしろよ」
「そうなんだけどねえ……」
「なに?」
「依田さんがジュースとかくれるからさぁ……だらだらしちゃうの」
「ジュースくらい自分で買え(笑)。っとに……自分の身をもっと心配しろよ」

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