絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「えっらく長い間避けたな」
 この一週間、自分でもうまく避けたと思う。だがそれが相手に伝わらないはずはない。
「いえ、そんな……」
 いつものように、倉庫に溜まったダンボールを外の置き場に並べていると背後から高藤は現れた。
「携帯もずっと鳴らしてんのに」
「……すみません」
「別に謝らんでもええけどさ」
「……」
 タイミング悪く、並べるダンボールはもうない。
「考えてくれた?」
 きた。
「あの……考えたんですけど……」
「うん。オッケイでしょ?」
 もちろんその顔を見ることはできない。
「すみません、私、やっぱりお付き合いはできません」
「何で?」
 早い切り替えしに戸惑う。
「え、あ、……、あの、私はやっぱり、私は」
「ちょっとだけ付き合ってくれたらええからさ」
「ち、ちょっとだけって……」
「大丈夫、大丈夫。前の女とはもう全然連絡取っとらへんし、何も心配せんでえーんよ」
 もちろん心配しているのはそんなことではない。
「いえ、あの、だって、子供さんもいるじゃないですか……」
「そやけどもう向こうの子やで? 遺伝子的には俺の子かもしれんけど、紙の上ではもう向こうの子やからな。
 俺もな……やっぱり子供が急におらんようになって、寂しいなってしもたんかなぁ。
 で、愛ちゃんに電話かけても出てくれへんし、さびしかったんよ?」
「……すみません……」
「な? 付き合おうな」
「……いえ……」
 ここで押し切られるわけには、さすがにいかなかった。
「やっぱりあの、それはできません」
 地面を見つめて、思い切って言葉にした。
「なんでー? 俺もな、離婚したんよ?
 愛ちゃんと付き合いたいためやで?
 そんなん俺、これからどないするんな?」
 突然声が変わったので、顔を見た。いつもと違う、見たこともない真剣な顔つきになっている。
「……」
「今晩迎えに来るからな」
「……」
「そんな怖い顔せんでもええんよ」
 高藤は急に、軽く笑う。
「俺は好きやから。それを忘れんといてな」
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