絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 なにが、好き、だ。
 その後姿を見て思う。
 今晩……10時上がり。
 宮下は今日は出社している。
 だからって何だ……。
 宮下がどうした……。
 彼にばかり頼るわけにはいかない。
 一体どうしてこんなに問題ばっかり振りかけてくれるんだと、そのうち呆れられるだろう。
 人として尊敬しているだけに、そんな風に思われたくはなかった。
 一番の理由はそこにある。
 そんな面倒な部下になりたくない。
 いつも自由がきく、素直な部下でいたい。
 宮下に限ったことではなかったが、特に彼の前ではそう思う。
 そして、困りきりながらも、どうにか逃げ道を神が創ってくれるだろうと信じた夜10時。
 倉庫がいつもより早く片付いたので、たまたまレジで清算を手伝っていた時だった。
「香月―!!」
 廊下から声がする。西野だ。
「はーい」
 あとは画面に入力するだけなので、作業をしながら返事をする。
「まだー?」
「後ちょっとー……」
 会話をしながらも、彼はこちらに近づいてきている。
「何?」
 西野は突然顔を近づけると小声で
「外にボクシーがあるけど、あれもしかしてそう? 金髪」
 香月は手を止めると鋭い目つきを西野に向けた。
「黒?」
「そう。ナンバーは……」
「ナンバーまでは覚えてない。どの辺にとまってる?」
「中央くらい」
「……どうかな……」
「さっき車内で電気つけて電話してたのが見えて、おかしいなと思って」
「何が?」
「そんな奴いねぇよ。誰かの彼氏かなって推理が妥当じゃね?」
「……」
 とりあえず、金額入力に頭を切り替える。
「あれからどうだったんだよ。全然……」
「おい西野、廊下は終わったのか?」
 突然の宮下の出現に気付かなかった香月は、息を呑んで後ろを振り返った。
「何だ? 香月?」
 宮下はその表情に驚いている。
「あ、いえ。突然で驚き驚きました」
「噛んでるぞ(笑)」
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