絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「いやなんか、どういうかな……。え、まさか、矢伊豆副店長?」
 香月は久しぶりに永作に話を振る。
「何ですか?」
「……矢伊豆副店長、格好いいと思う?」
「悪くはないと思います」
「うーん、まあねぇ。悪くはないか」
「悪くはないですよね、確かに」
 佐伯も納得する。
「けど、依田さんも結構いいと思います」
「……、ほんとに??」
 香月は目をまん丸にして確認する。
「……」
 永作はただの職場の弁当に、豪勢なエビの頭つきフライが入った手作り弁当を上品に口にしただけで何もいわなかったが、その表情が、いつもとは全く違っていた。
「依田さんだったらイケますよ」
 佐伯は簡単に確信をする。
「うんまあ……、軽く落ちるタイプではあるかな」
「いつも面白くて、明るいですよね」
 弁当をながめながら顔を赤らめる永作が、あの依田のことをそんな風に思っていたのだと知ってしまったことに、2人で心底驚きながらも、
「そうそう、優しいよ。ジュース買ってくれたりするし……」
「えっ?」
 ビックリするほど素早く、彼女はこちらを向く。
「えぇ!? あぁ、いや……倉庫で、喉が乾いたなぁとか思ってると、皆に買ったりするよ??」
 永作に刺激を与えないよう、精一杯誤魔化す。
「あ、私も買ってもらったこと……あったような気がする……。あれは依田さんじゃなかったかな……」
 佐伯も言いかけて止まらなかったのだろう。なんとか濁している。
「私も、倉庫行きたいな……」
「いやあのその、いや、あのー、まあ……、そうだね……。あ、そっか……」
「先輩、動揺しすぎ(笑)」
「いやいや、違うの。うまく私と交代なんかしたら倉庫いけなくもないかなぁって瞬時に考えてたところなのよ!」
「え、本当に倉庫でいいんですか?」
 倉庫自体を知らない佐伯は、想像でそう確認している。
「倉庫がどんなところか分からないけど……行ってみたいかな……」
「先輩、うまくかわれないんですか?」
 佐伯は肘をつつきながらニヤニヤこちらを見てくるが、
「えー、宮下店長にどう言おうかなぁ。交代しても私がパソコン売れないからなぁ……」
「素直に、倉庫行きたいですって言ったら、いいじゃないですか? 休みの日……とか?」
 佐伯も疑問に思いながら喋っているだけあって、全く考えていないようだが、
「それいいかも」
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