絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ
携帯を耳にあててやってきたのは、先ほどイケメンと話題になった真籐氏であった。彼は本社勤務なので香月も数回しか見たことがない、人事部の担当である。年は23。有名だ。副社長の息子で、一流有名大学を卒業してから大型店で一年勤務して、今年から本社に移動になったキレ者らしい。学生時代はアルバイトにまぎれてバイトらしきこともやっていたようだが、その時は今みたいな冷たい奴じゃなかった、と確か誰かが言っていた。
説明なしのエリートである。
しかもこれが美形ときた。黒く長い髪の毛は十分手入れされており、前髪は顎まで、後ろもそれくらいでナチュラルにカットされており、色白の肌によく映える。なかなか長身で体つきもよく、仕事ができるらしいが、宮下店長と仲があまりよろしくないと、もっぱらの噂である。度々店長室で厳しい意見の飛びあいになっているというのは何度も聞いたことがある。
宮下からすれば十も年下にあたるが、副社長の息子という肩書きのため、なかなかうまくいかないことも多いのではないだろうか……。
しかし、香月はまさか真籐に用などなく、ただすれ違うだけだと、ちらちら観察していると、声をかけられたのでドキリとした。
「香月さん」
相手は直視している。しまった、相手はずっと名札を確認していたに違いない。
「あっ、はい」
「ちょっと」
ふっと過ぎって店長室に入る。
しまった……、人事移動だ。
香月は覚悟をして、真籐の後に続いて、店長室に入った。
「座って下さい」
意外にも、彼は優しい口調で、香月に下座のパイプ椅子に座るよう命じた。自らは、上座のパイプ椅子を引く。
「あ、はい……」
ゆっくりと座る。確かに、こうやってまっすぐ見ると本物の美人だが、それよりも、背後で開け放たれたドアの方が気になった。
「初めて……ですね、香月さんとお話をするのは」
彼は優しく話しかける。
「あ、はい……そう……ですね」
一体どこへ移動させるつもりだろう、香月の頭の中は次の行き先のことでいっぱいで世間話どころではない。
「さっそくですが、色々聞きました。お客様の家での酒のこと、誘拐事件のこと……」
「……」
香月は静かに机を眺めた。
「今、レジにはあまりいないそうですが、どうですか?」
どうだろう……ゆっくりと言葉を考える。
「今はほとんど……倉庫にいます。宮下店長は、好きな方を選んでもいいとおっしゃってくださいましたが……、どちらでも、と答えました」
「そうですか……」
真籐は目を伏せた。
説明なしのエリートである。
しかもこれが美形ときた。黒く長い髪の毛は十分手入れされており、前髪は顎まで、後ろもそれくらいでナチュラルにカットされており、色白の肌によく映える。なかなか長身で体つきもよく、仕事ができるらしいが、宮下店長と仲があまりよろしくないと、もっぱらの噂である。度々店長室で厳しい意見の飛びあいになっているというのは何度も聞いたことがある。
宮下からすれば十も年下にあたるが、副社長の息子という肩書きのため、なかなかうまくいかないことも多いのではないだろうか……。
しかし、香月はまさか真籐に用などなく、ただすれ違うだけだと、ちらちら観察していると、声をかけられたのでドキリとした。
「香月さん」
相手は直視している。しまった、相手はずっと名札を確認していたに違いない。
「あっ、はい」
「ちょっと」
ふっと過ぎって店長室に入る。
しまった……、人事移動だ。
香月は覚悟をして、真籐の後に続いて、店長室に入った。
「座って下さい」
意外にも、彼は優しい口調で、香月に下座のパイプ椅子に座るよう命じた。自らは、上座のパイプ椅子を引く。
「あ、はい……」
ゆっくりと座る。確かに、こうやってまっすぐ見ると本物の美人だが、それよりも、背後で開け放たれたドアの方が気になった。
「初めて……ですね、香月さんとお話をするのは」
彼は優しく話しかける。
「あ、はい……そう……ですね」
一体どこへ移動させるつもりだろう、香月の頭の中は次の行き先のことでいっぱいで世間話どころではない。
「さっそくですが、色々聞きました。お客様の家での酒のこと、誘拐事件のこと……」
「……」
香月は静かに机を眺めた。
「今、レジにはあまりいないそうですが、どうですか?」
どうだろう……ゆっくりと言葉を考える。
「今はほとんど……倉庫にいます。宮下店長は、好きな方を選んでもいいとおっしゃってくださいましたが……、どちらでも、と答えました」
「そうですか……」
真籐は目を伏せた。