絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「奥さんと仲が……うまくいかなくてちょっと……言ってみただけだとか。そんな、そんなレベルだったんです。今……今考えればそうなんだと思うんですけど、その時は私もまだよく分からなくて、若くて、その……大げさに言ってしまっただけだったのです」
「今回の昇進、実は私は反対しました」
 そこで香月と目を合わせる。
「だけど、大切なのは仕事に対しての実力ですから。それが評価された結果が昇進だったのです。それに、離婚してもう心配は何もないし」
「あの……」
 香月はじっと何かを考えている。
「はい」
「あの……。相談をしてもよろしいでしょうか?」
 やはり、何かあるのだな。真籐はすぐに直感する。実はこの話題を出したのは、店舗でももしかしたら同じようなことがあったのではないか調査するためでもあった。
「できる限り、いい解決法を探しましょう」
 とりあえず安心をさせておく。
 2人は、静かに話しを続けた。
「私が本社に来たのは、実は今悩みがありまして……」
「はい」
「お願いですから、この話をきっかけに、私を店舗に戻すのをやめようとか、そういう風にもっていかないでください」
「……とりあえず、聞きましょう」
 約束はできない。
「……。同じようなことです。佐藤副店長と。ただ、エレクトロニクスの社員ではありません」
「誰か、聞いてもいいですか?」
「運送会社の人です。本店に、ソニーの商品を持って来ている、高藤という男性です」
「ソニー……鳥速便?」
「いえ、航空便です」
「……詳しく話しをしてください」
 あまり真剣な表情を見せるのはよくないと思いながら促したせいか、表情が微妙になる。
「……高藤さんは、人懐こい人で……よく、前の下ろし場でもらったというお菓子を、2百円くらいのお菓子を、よく手渡してくれていました。
 よく、話をしていました。えっと、30代で結婚していて、奥さんも、子供も2人、男の子と女の子が、まだ小さい子がいました」
「うん」
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