絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「だけど突然、離婚したから食事に行こうって誘われて……断れませんでした。そこで、付き合ってほしい、離婚したのはそのためだって……。それから、また誘われて、だけど私はまったく付き合う気がなかったので……。西野さんに相談をしました」
「西野……冷蔵庫?」
「あ、はい。で……、そしたら、結局、直接言ってやるからって話になって……」
「うん」
「もう閉店して、お店も閉める間際だったので、人もほとんどいなかったんですけど、言い争いになって……西野さんがどんな説明をしたのかは聞いていませんけど、それで、そうしていたら、鍵を閉めた宮下店長と矢伊豆副店長が出て来て……」
「あぁ、……もしかしたら、佐々木部長が動いてた件かな……」
「え?」
「いや、なんか佐々木さんがそういえば何か言ってた気がするな……。香月さんのことだったんですか」
「あ、いえ……」
「たぶん、宮下店長の方から、本社になんらかの連絡がいってるんだと思いますよ」
「え、あ、そうだったんですか……」
「たぶん、です。私も詳しくはまったく知らない。だけど確か……そんなことを言っていたような気がします。
 だとしたら、その件はもう大丈夫でしょう。逆に、あなたを店舗に戻してもよくなった」
「……」
 香月は俯いてテーブルを見つめている。
「一旦、食事をしますか?」
「え? あ、はい……」
 真籐は隅にあったメニューを香月に向かって広げる。
「では……何がいいです? ……何か、飲みますか?」
「あ、えっと……なんでも……」
「飲み物は? 遠慮しなくても大丈夫です。私も飲みますから」
「あ、はい……。えっと……」
「今日はプライベートな誘いです。好きに飲んでください」
 ここが今日の本質であったため、笑顔が大袈裟になるが、まあいい。
 香月は少し笑って、「軽い物を……」とだけ注文した。
 適当にカクテルを取ってやり、2人はようやく食事を始めた。
「店舗の仲間とはよく遊びに行きますか?」
「あ、はい。この前は宮下店長の自宅に遊びに行きました」
「へー……どうしてまたってこともないけど(笑)」
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