絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
レジの画面に落とした視線を一旦止めてから、顔を上げて確認する。もう会話は聞こえないくらい離れている。だが、香月の背中がどうも、普通の客を案内しているようには見えない。
 もう一度視線をレジに戻す。今、自分がしようとしていた作業は何だったのか……。一瞬の、あり得ない妄想から頭がなかなか戻ってこない。
ようやく商品の発注をしようとしたところだったと思い出したところで、トランシーバーで呼ばれていることに気づいた。相手は早口で喋っている。
「あ、はい。ごめん。もう一回言って」

 
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