絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ
エレクトロニクスの閉店時間は午後10時。それから本格的な閉店作業が始まる。といっても今の時期はものの30分くらいだ。なぜなら、それまでに大体の作業は完了しているからである。
宮下昇はこの作業の間になんとか香月本人から話を聞きだそうとある程度仕事を部下に回したところで、堂々と彼女を呼んだ。
「香月さん、香月さん、現在地は?……」
マイクに言うより早く、レジの端で見つける。
「あ、いい。見つかった」
香月もこちらに気づいてくれるが、近くに玉越がいることに注意して、10メートルほど手前で止まり、手招きだけした。彼女は走って来る。
宮下は密かにこの彼女の素直さを買っていた。指示は必ず元気の良い返事でもって応えてくれるし、文句も言わない。態度はきびきびしているし、笑顔もなかなかだ。仕事自体は時々、作業をし忘れているときもあるが、たいしたことではない。大切な客との約束や、接客態度は評判がよく、看板娘と賞賛できるくらいである。
そう、決して美人だから評価しているわけではない。中身がいいのだ。
実は、店が大きくなり、人数が増えてくると、リンゴが腐り増えるのと同様の現象が一部で表れることがある。そういう意味では、彼女はいつまでもどこに置いても腐らない、貴重な存在だった。
ただ気がかりなのは、ナンパや、恋愛目的の客、客に及ばず社員の中にも的を勘違いした者がいると聞く。彼女の外見を一度見てしまうとその類の問題は仕方ない気はするが、なるべく小さいうちに芽をつんでおきたい。
さて、とりあえず2人は歩きながら、誰からも見えない売り場の中の方に入っていく。
「今日の、ICの男性のお客さんなんだけど……」
「……はい」
明らかに顔つきが変わった。こちらを見ようとしない。
「知り合い?」
「……というほどでも……」
足を止める。
「いや、クレームのお客さんかなあと思って。なんか、調子悪そうだったから」
宮下は一旦引く。
「いえ。……時々、難しいことを聞いてくるので苦手なだけです。分からないことがあっても、調べるのを待っていたりするので……時間かかるし……。他の人に頼めない感があって……」
「ふーん……。なんか、会話が変だったから」
「……」
彼女は息を呑んで硬直した。
「いや……」
宮下もその状態に少し戸惑う。
「変というか、たまにあるんだ。お客さんに口説かれる女の子とか。そう……」
「……」
「そういう感じなのか?」
宮下昇はこの作業の間になんとか香月本人から話を聞きだそうとある程度仕事を部下に回したところで、堂々と彼女を呼んだ。
「香月さん、香月さん、現在地は?……」
マイクに言うより早く、レジの端で見つける。
「あ、いい。見つかった」
香月もこちらに気づいてくれるが、近くに玉越がいることに注意して、10メートルほど手前で止まり、手招きだけした。彼女は走って来る。
宮下は密かにこの彼女の素直さを買っていた。指示は必ず元気の良い返事でもって応えてくれるし、文句も言わない。態度はきびきびしているし、笑顔もなかなかだ。仕事自体は時々、作業をし忘れているときもあるが、たいしたことではない。大切な客との約束や、接客態度は評判がよく、看板娘と賞賛できるくらいである。
そう、決して美人だから評価しているわけではない。中身がいいのだ。
実は、店が大きくなり、人数が増えてくると、リンゴが腐り増えるのと同様の現象が一部で表れることがある。そういう意味では、彼女はいつまでもどこに置いても腐らない、貴重な存在だった。
ただ気がかりなのは、ナンパや、恋愛目的の客、客に及ばず社員の中にも的を勘違いした者がいると聞く。彼女の外見を一度見てしまうとその類の問題は仕方ない気はするが、なるべく小さいうちに芽をつんでおきたい。
さて、とりあえず2人は歩きながら、誰からも見えない売り場の中の方に入っていく。
「今日の、ICの男性のお客さんなんだけど……」
「……はい」
明らかに顔つきが変わった。こちらを見ようとしない。
「知り合い?」
「……というほどでも……」
足を止める。
「いや、クレームのお客さんかなあと思って。なんか、調子悪そうだったから」
宮下は一旦引く。
「いえ。……時々、難しいことを聞いてくるので苦手なだけです。分からないことがあっても、調べるのを待っていたりするので……時間かかるし……。他の人に頼めない感があって……」
「ふーん……。なんか、会話が変だったから」
「……」
彼女は息を呑んで硬直した。
「いや……」
宮下もその状態に少し戸惑う。
「変というか、たまにあるんだ。お客さんに口説かれる女の子とか。そう……」
「……」
「そういう感じなのか?」