絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ
「……どうかな……」
「……」
「……ロンドンは来月にも行く予定なんだ。もともと、去年から依頼が来ててな……遅れるが今行かないわけにはいかない」
「そっか……」
「……愛は、今どうしてる?」
一瞬考えて、正直に話す。
「レイジさんと飲んでたよ、少し前まで」
「レイジ?」
「ミュージシャンの。知らない?」
「いや、知ってる」
「ルームシェアで一緒に住んでるの。ただの同居人。今は飲みすぎてね、本当は喉が痛い」
「ほどほどにしろよ(笑)。そんな酒、強くないだろう?」
「うーん、多分ね。……一緒に飲んだことなんかあったっけ?」
「いや、どうだったかなぁ……」
「なかったよ」
「あぁ、そうだったかな」
彼は私とのことなんか、逐一覚えていない。
「あ、そうだ。坂野崎先生が……」
「どうした?」
「飲みに誘われて断ったんだった」
「知り合い?」
「まあ、えっと、入院してたときに知り合ったの」
「そんな、患者と医者の間柄で飲みになんか行かない方がいい」
「是非坂野崎先生に言っておいてください」
「分かった」
「いやごめん、うそうそ(笑)」
「え?」
「えっと、まあ、最近はもう知り合いかな。普通の」
「ちょっと知り合ったからってすぐ飲みに行ってたら危ないぞ」
「どんなに悪い人なのよ(笑)」
彼は少し笑う。
「……良かった……普通だな」
「……そう? ちょっと酔いが冷めてきたかもね」
「あぁそうか……」
「……そろそろ行かないとね」
「いや、別に行くところもないけど……出発の準備もしなきゃな」
「……頑張ってね」
「あぁ。じゃあ……」
「ねえ」
違う。ここで遮ったのは、何か特別な意味があったわけじゃない。
「もし、ロンドンに行くことがあったら、遊びに行ってもいい?」
嫌とは言わない。
「あぁ。着いたら住所教える。メール……しようか。いや、エアメールがいいな」
「何で?(笑)」
「海外行くと書きたくなる」
「そうだったっけ?」
「最近な、年をとったせいかな」
「そっか……もう36?」
「今年7」
「そっか、いい年だねほんとに」
「長い間生きたよ」
医者である彼の、その言葉は重い。
「……」
「……ロンドンは来月にも行く予定なんだ。もともと、去年から依頼が来ててな……遅れるが今行かないわけにはいかない」
「そっか……」
「……愛は、今どうしてる?」
一瞬考えて、正直に話す。
「レイジさんと飲んでたよ、少し前まで」
「レイジ?」
「ミュージシャンの。知らない?」
「いや、知ってる」
「ルームシェアで一緒に住んでるの。ただの同居人。今は飲みすぎてね、本当は喉が痛い」
「ほどほどにしろよ(笑)。そんな酒、強くないだろう?」
「うーん、多分ね。……一緒に飲んだことなんかあったっけ?」
「いや、どうだったかなぁ……」
「なかったよ」
「あぁ、そうだったかな」
彼は私とのことなんか、逐一覚えていない。
「あ、そうだ。坂野崎先生が……」
「どうした?」
「飲みに誘われて断ったんだった」
「知り合い?」
「まあ、えっと、入院してたときに知り合ったの」
「そんな、患者と医者の間柄で飲みになんか行かない方がいい」
「是非坂野崎先生に言っておいてください」
「分かった」
「いやごめん、うそうそ(笑)」
「え?」
「えっと、まあ、最近はもう知り合いかな。普通の」
「ちょっと知り合ったからってすぐ飲みに行ってたら危ないぞ」
「どんなに悪い人なのよ(笑)」
彼は少し笑う。
「……良かった……普通だな」
「……そう? ちょっと酔いが冷めてきたかもね」
「あぁそうか……」
「……そろそろ行かないとね」
「いや、別に行くところもないけど……出発の準備もしなきゃな」
「……頑張ってね」
「あぁ。じゃあ……」
「ねえ」
違う。ここで遮ったのは、何か特別な意味があったわけじゃない。
「もし、ロンドンに行くことがあったら、遊びに行ってもいい?」
嫌とは言わない。
「あぁ。着いたら住所教える。メール……しようか。いや、エアメールがいいな」
「何で?(笑)」
「海外行くと書きたくなる」
「そうだったっけ?」
「最近な、年をとったせいかな」
「そっか……もう36?」
「今年7」
「そっか、いい年だねほんとに」
「長い間生きたよ」
医者である彼の、その言葉は重い。