絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
た 山田は冗談ではなく、冷静に私を捉える。
「私は……レジ周りが基本ですので」
「じゃぁ、このICレコーダーも詳しくないのに私に売ろうとしているのかね」
 何この展開。
「それは……」
 山田はじっとこちらを見つめていたが、香月は完全に目をそらしていた。
「もっと詳しい説明ができる者がいるにも関わらず、適当な説明で買わそうとしていたということなんだね?」
「いいえ、それは……」
 まさかのクレームに、顔がどんどん俯いていく。
「実は、言いそびれていたんだがね」
 香月は顔を上げた。
「この前買っただろう。テレビ。2月前だ」
「はい」
「実は、インターネットに繋がらないんだよ。よく見たらケーブルが違っている」
「……申し訳ございません」
「店長を出してくれ」
「は……」
「なんなら、店長に、僕と君がどう知り合って、どんな仲なのか、写真も見せてもいいんだよ」
「……それ、は……」
「困るのは君だ。僕が映したという証拠はない」

 仲村徹は、4人の副店長と店長の5人体制であるこの店の、本日店長も副店長も2人しかいない、2人体制の今日というこの日を忙しく駆けずり回っていた。
 仲村はたいてい黒物を守ることが多く、今も2件の案件を抱えて、とりあえずレジから途中まで持ってきてくれる伝票を取りに行こうとしていた。
 と、そこへ見慣れない風景。
 仲村は足を止めた。何でも屋の香月愛が中年の男に詰め寄られて顔を完全に伏せている。
 とりあえず序所に近づく。普通の接客とは思えなかった。クレームで叱られているのか?
「いらっしゃいませ」
 まず笑顔で近づく。
「……副店長さんか」
 男はネームを見てつぶやく。
「何か、お困り事が……」
「店長はいないんですか?」
 スーツにメガネの普通のサラリーマンのように見える。年は45くらいか。
「すみませんが、あいにく今日はお休みを頂いておりまして……私がお伺いいたしますが」
 香月の顔色が真っ青だ。
「接客の態度が実になっていなくてね」
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