絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 彼は自動ドアの外を見たまま、一度もこちらを見ようとしない。
「うーん、そうねえ……。まあ、……うーん、何が聞きたい?」
「その人とシタ?」
 それが聞きたかったのか……。
「してないよ。そんな関係じゃないもの。そんな……するとかしないとかの関係じゃないの。もう、ずっと前からそうなの」
「しない友達?」
「しない友達。まあ、どうせするなら、恋人の方がいいしね」
「……その人は恋人にはならない?」
「そうだね……」
 それ以上、何も考えたくない。
「あ、そうそう、私英語勉強しようと思うんだー」
「いいじゃんすれば」
「冷たいなー(笑)。教えてくださいよ」
「そんな都合のいいときだけね、僕を使うなんて。僕は都合のいい男じゃないんだよ」
「そんな(笑)、大袈裟な(笑)」
 レイジが冗談ですねているのが分かる。どうしてだろう。
「英語喋れるようになったら、またロンドン行くんでしょ?」
「行かないよ。そんな滅多に……。例えば、お金が溜まったから、時間があるから、ロンドンに行きたいとは思わない」
「なんだかなあ、危ないなあ……」
「何が(笑)」
「色々ね……」
 レイジはそこで一旦区切る。
「で……」
「あ、ユーリさんはどうでした?」
「どうって?」
「いやー……。どうってこともないけど」
「心配してたよ。ロンドンで何してるんだろうって」
「えー、本当?」
「うん、3人でピロシキ食べたら美味しかったなーとか」
「それ絶対今レイジさんが勝手に考えたでしょう?」
「そんなことないよ(笑)。僕はピロシキを食べながら、これが3人だったらなーと思ったよ。ユーリも多分思ったと思う」
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