絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「アハハハハハハハハ」
「そんな、笑わなくても」
 榊久司は何が面白かったのか、
「もし、私が家が欲しいといったら、貯金の一千万でどうにかしてくれる?」
の問いに大袈裟に笑ってみせたのだった。
 予告通り、国際ホテルの29階で絶好の夜景を眺め、日本料理と酒をゆっくりと味わいながら2人きりの時間を楽しんでいるのである。
「なんで、突然(笑)」
 彼はさも可笑しそうに、とっくりを傾ける。
「え。うーん、話せば長くなるんだけど」
「いいよ」
 彼は自分で注いだ酒を自分で飲む。ここで気の利いた女ならば、一杯注いで膝でも撫でてもらうのだろうが、自分にはそれができない。
「えーとね、総会の前日、あのドレス、試着して家族の人に見せたの。で、総会が終わってからどうだったって聞くから「安物のドレスだって馬鹿にされた」って言ったら「じゃぁ高いの買ってって言えばいいのに」ってゆーから……なんとなく……」
「え、それで家?」
「いやだからまあ、極端に家って……だってドレスもロンドンで買ってくれるって言ってたじゃん。だからもし家って言ったらどうするかなあって」
「家ねえ……。車くらいはあれだけど」
「100万の軽なら大丈夫って意味?」
「いや、家って誰と住むためのって話しになってくるからどうかなあって」
「なるほどね……」
 そこを深く突っ込むのは怖い。
「BMくらいなら大丈夫だよ」
「やだなあそれ」
 香月は刺身を頬張りながら言う。
「あ!! あれだよそうだよ!!」
「どうした(笑)」
「BMの限定品、阿佐子の友達の人からもらったの、知ってる??」
「聞いたよ(笑)」
「あれ、そうだっけ……」
 香月は頭をフルで回転させる。
「まあ、お嬢様の友人なら車一つプレゼントする人なんてたくさんいるだろう」
「……まあねえ」
 友人、といわれると、少し違う気もするが。
「お嬢様は元気?」
「うーん、実は、そのプレゼント貰ったことで少しこじれた気がするんだなあ」
「ふーん」
「それから全然連絡とってない。あ、これ内緒ね」
「あぁ」

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