絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「あの、香月のことなんですが」
「あぁ」
「あの、山田とかいう客が今日来まして。ICレコーダーの接客中だったようなんですが、途中で態度がなってないから店長を呼べと言い出しまして」
「この前見たよ。なんか、しつこい感じだったけど?」
 仲村はそれには答えず、
「それで、とりあえず謝ってその場はすみましたが、あとで反省の電話を個人の携帯にかけろと。その際、自分の携帯番号も留守電に吹き込んでおけ、と」
「なんで?」
「集まる会の連絡を取りたいから、と言ってはいましたが。あと、42を30台400万で買うからと見積もりを出させようとしたそうです。名刺には桜美院大学の准教授と書かれていました」
「……いまいち分からんな」
「で、さっき香月本人と話をしてきたら、相手は当時通っていた大学で知り合った教師で、昔、男女の関係があったそうです」
「……香月が?」
 やはり宮下もそこに驚いている。
「それで、その時に撮った写真を店長に見られたくなかったら、態度を改めろと、復縁を迫られたようで」
「…………。まさか、写真って、その、いかがわしい写真なのか?」
「そこまでは聞けませんでしたが、見られて困るような写真なんでしょう」
「……」
 宮下が溜め息をつく。
「どうしましょうか? 色々考えたんですが、とりあえずは、電話して。まあ、自分の電話番号はプライベートなことですから、と断る」
「その、テレビとかICをごっちゃにするから……」
「そうなんです。だから、とりあえず店でするのは、まあ、反省の電話くらいかなと」
「……しつこかったら、まずいな。本当に写真を出しそうな雰囲気なのか?」
「いや……相手も身分がある立場ですからね」
「おかしい感じではない?」
「今のところは。だけど、いつそっちに行ってもいいようなそんな雰囲気はありました」
 宮下はなんとなく、相槌を打ってから、
「とりあえずは、謝罪の電話をさせて、自分の電話番号は言わない。あ、明日俺が出社か……」
「私は休みです」
「じゃぁ、電話のとき、付き添うようにしよう。明日香月出社だったよな……。あぁ、ん? いや、出社になってる。とにかく気を付けておくよ」
「ありがとうございます、お願いします」
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