絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ
午後からの出社になってる香月がシーバーで挨拶するなり、宮下は「オリテルがある」と曖昧に飛ばし、テレルームまで呼んだ。
部屋の前で子機1台を持って待つ。
「ちょっと、店長室まで」
人目もあるので、彼女の顔色も見ずに前を向いて歩き出す。2メートルほど進んだところで一度振り返って見た。大丈夫、ついてきている。
店長室に誰もいないことは確認済みだった。原則として扉は開け放してあり、小さな部屋には長机とパイプ椅子、パソコン、書類だけがある。副店長は売り場中心だが、店長はほとんどをこの部屋で過ごすことが多い。それだけ日々雑務に追われているということだ。
宮下は部屋に香月が入るなり、本題に入る。
「昨日仲村副店長から聞いた。そのオリテルのことなんだけど」
「……はい。私も、昨日少し考えて。多分、留守電になると長引くから相手が出る時間帯にかけた方がいいと思ったんです」
しっかりした受け答えに安心する。
「何時くらい?」
「お昼が……授業が終わるのが12時半です。だから……」
「1時くらいにかけてみるか?」
「はい」
「自分の電話番号も教えろって言ってたそうだが」
「それは……言うつもりありません」
「うん。俺もそれがいいと思う」
「……」
「じゃあ。1時くらいにもう1回上がって来なさい、ついでにこれ返してきて」
「はい」
香月は子機を受け取るとすっと部屋から出た。
宮下は覚悟を決めたような香月にこの事件はもう半分片付いたものだと感じた。この前、2人の後ろ姿を見たときとは違う、もっとしっかりした態度を決め込んだのだろう。
1時まであと45分、体をあけておこう。宮下は簡易椅子に腰掛け、ノートパソコンの前を陣取りながら、ウインドウズが起動する間だけ香月のことを考えようと思う。
しかし、性能のいいシステムはすぐに立ち上がってしまう。
香月愛……。入社した時から、目鼻立ちの通った色白の美人だと噂の的だった。勤務地が小型店なので入社してしばらくは落ち着いていたが、大型店に勤務し始めてからは、その地位を狙う者も多い。と、聞く。普段玉越という分厚い女が側にいるおかげでガードができているが、それがないと多分、危ない。
危ない?
そう、危ない。
家電部門長の佐藤浩二、それが良い例だ。
あの人も、香月に出会わなければ、もっと違う人生を歩んだだろうに……。
部屋の前で子機1台を持って待つ。
「ちょっと、店長室まで」
人目もあるので、彼女の顔色も見ずに前を向いて歩き出す。2メートルほど進んだところで一度振り返って見た。大丈夫、ついてきている。
店長室に誰もいないことは確認済みだった。原則として扉は開け放してあり、小さな部屋には長机とパイプ椅子、パソコン、書類だけがある。副店長は売り場中心だが、店長はほとんどをこの部屋で過ごすことが多い。それだけ日々雑務に追われているということだ。
宮下は部屋に香月が入るなり、本題に入る。
「昨日仲村副店長から聞いた。そのオリテルのことなんだけど」
「……はい。私も、昨日少し考えて。多分、留守電になると長引くから相手が出る時間帯にかけた方がいいと思ったんです」
しっかりした受け答えに安心する。
「何時くらい?」
「お昼が……授業が終わるのが12時半です。だから……」
「1時くらいにかけてみるか?」
「はい」
「自分の電話番号も教えろって言ってたそうだが」
「それは……言うつもりありません」
「うん。俺もそれがいいと思う」
「……」
「じゃあ。1時くらいにもう1回上がって来なさい、ついでにこれ返してきて」
「はい」
香月は子機を受け取るとすっと部屋から出た。
宮下は覚悟を決めたような香月にこの事件はもう半分片付いたものだと感じた。この前、2人の後ろ姿を見たときとは違う、もっとしっかりした態度を決め込んだのだろう。
1時まであと45分、体をあけておこう。宮下は簡易椅子に腰掛け、ノートパソコンの前を陣取りながら、ウインドウズが起動する間だけ香月のことを考えようと思う。
しかし、性能のいいシステムはすぐに立ち上がってしまう。
香月愛……。入社した時から、目鼻立ちの通った色白の美人だと噂の的だった。勤務地が小型店なので入社してしばらくは落ち着いていたが、大型店に勤務し始めてからは、その地位を狙う者も多い。と、聞く。普段玉越という分厚い女が側にいるおかげでガードができているが、それがないと多分、危ない。
危ない?
そう、危ない。
家電部門長の佐藤浩二、それが良い例だ。
あの人も、香月に出会わなければ、もっと違う人生を歩んだだろうに……。