絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ
宮下の表情は厳しくなり、「また」という言葉が引っかかった。
香月はただ、俯く。
聞かれていることを恥じているのか、それとも、山田の「また」という思惑に驚愕しているのか。
次の山田のセリフ次第では電話を代わらなければならない。
『実に君は……。よくそんなところで普通に働いているね。見たとき、驚い』
「私は、普通です!」
震える声で反論するが、宮下は椅子から立ち上がった。
『以前の君は、縛られて何度も私を欲しがったものだよ。それを忘れて今はそこで客取りかい?』
宮下は子機を奪い、ハンズフリーを解除すると部屋を出た。
「遅れました、店長の宮下です」
すぐ側の給湯室に入る。
『……途中から聞いておられたのかな?』
「初めから聞いていました。この度はうちの香月の態度がお客様の意向に背くものであったと、大変深く反省しております」
『フン……言いつけを守れないのは昔からですよ』
「今回のことで香月も深く反省しておりますが、以後商品をお買い求めの場合は私に言いつけ下さい」
『……何故?』
「香月はそもそも販売の資格もありません」
『そんな従業員に販売させたのはあんたの方だろう?』
「分かる範囲での接客、お客様から求められた場合の接客なら許容しております」
『……まあいいよ。テレビも他の店で買うよ』
「残念ですが、仕方ありません」
『どうせあんたも知ってるんだろう? 愛がどんな風に抱かれるのが好きなのかを』
「……。香月とお客様がどのような関係だったかは分かりませんが、香月は今は普通に、大人になって生活しています。どうか、それを脅かすようなことだけはおやめください」
『じゃあ、あんたが知らないだけだ……。他の皆知ってるよ』
「……そうですか……」
さすがの宮下も言葉を失い、黙る。
『もう切るよ。何も知らないと言い張るあんたと話すのくらい無意味なことはない』
「今度から香月への電話は全て私につなぎますので、申し訳ありませんがご承知ください」
『ふん』
香月はただ、俯く。
聞かれていることを恥じているのか、それとも、山田の「また」という思惑に驚愕しているのか。
次の山田のセリフ次第では電話を代わらなければならない。
『実に君は……。よくそんなところで普通に働いているね。見たとき、驚い』
「私は、普通です!」
震える声で反論するが、宮下は椅子から立ち上がった。
『以前の君は、縛られて何度も私を欲しがったものだよ。それを忘れて今はそこで客取りかい?』
宮下は子機を奪い、ハンズフリーを解除すると部屋を出た。
「遅れました、店長の宮下です」
すぐ側の給湯室に入る。
『……途中から聞いておられたのかな?』
「初めから聞いていました。この度はうちの香月の態度がお客様の意向に背くものであったと、大変深く反省しております」
『フン……言いつけを守れないのは昔からですよ』
「今回のことで香月も深く反省しておりますが、以後商品をお買い求めの場合は私に言いつけ下さい」
『……何故?』
「香月はそもそも販売の資格もありません」
『そんな従業員に販売させたのはあんたの方だろう?』
「分かる範囲での接客、お客様から求められた場合の接客なら許容しております」
『……まあいいよ。テレビも他の店で買うよ』
「残念ですが、仕方ありません」
『どうせあんたも知ってるんだろう? 愛がどんな風に抱かれるのが好きなのかを』
「……。香月とお客様がどのような関係だったかは分かりませんが、香月は今は普通に、大人になって生活しています。どうか、それを脅かすようなことだけはおやめください」
『じゃあ、あんたが知らないだけだ……。他の皆知ってるよ』
「……そうですか……」
さすがの宮下も言葉を失い、黙る。
『もう切るよ。何も知らないと言い張るあんたと話すのくらい無意味なことはない』
「今度から香月への電話は全て私につなぎますので、申し訳ありませんがご承知ください」
『ふん』