絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「え!? いや、知らん……」
「ユキトさんだったのかな……」
「相手わからんのかいな(笑)」
「記憶ではレイジさんだったんですけどね」
「えー??」
「でも、私の記憶では、レイジさんにキスされて怒ってユーリさんの部屋に行って……」
「いや、来てへんよ。少なくとも俺の記憶では。まあ、寝てたら分からんけど」
「ううん、喋ったと思う。ツアーがあるからとか」
「うーん……。そういわれたら俺……寝言でもいうたかなぁ」
「えーと、パソコン見てたような気が……」
「……えー?」
「うーん。まあいっか。いやでも私、レイジさんにキスされて、怒って引越ししようと思ってたんですよ」
「昨日?」
「……昨日の時点では思ってたんですけどね……。えー。本当だったら引越ししたいな……」
「そんな別にええやん(笑)。忘れてるんやったら」
「でもきっと多分私も記憶がなくて、酷い感じだったんじゃないかなあ」
「……ほんまに? レイも酔うてたから記憶ないかもしれんけど」
「……」
 香月は一度考えてから、もう一度自室に戻った。
 レイジは布団から少しだけ顔を出して眠っていた。
 指で、その唇に少しだけ触れてみる。
「……」
 そんなことで、思い出せるはずはない。
「レイジさん」
 これは緊急事態だと判断して起こしにかかる。
「レイジさん!」
 眉間に皺を寄せて顔を反対に向けられた。
「昨日、キスしませんでしたっけー?」
 レイジは何も答えない。
「愛ちゃあん!」
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