絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 リビングでユーリが呼ぶ。
「何ですか?」
「今ユキトに電話したらな。なんか寝顔にキスしてもーたって(笑)。代わる?」
 携帯を差し出されて一瞬戸惑ったが、とりあえず出た。
「……もしもし」
「あ、もしもし? あの……ごめんな? 昨日のこと怒ってるって聞いたから」
「え?」
 思わずユーリを見る。ユーリはこちらを見てにやにや笑っていた。
「いやあのー。いえ、別に。構いませんってこともないけど。あんまり……覚えていないし」
 というか、全然覚えていない。
「可愛いかったんよ。ほんまに」
「はあ……あの、私の方こそ、わざわざ自宅まで送っていただいてありがとうございました」
 言いながら思い出そうと試みる。
「それはええんよ、別に」
「……じゃあ」
「……うん、またメールするわ」
「……」
 メール?
 電話を切る。
「私、ユキトさんにアドレス教えたのかなぁ」
「さあ……?けど、お気にになってもーたことは間違いないよ(笑)」
 ま、いっか。たしか、面白い人だったし。メールは適当に返信して、もう会うのはやめよう。
 香月は携帯をユーリに戻した。
「レイは? 起きへんやろ?」
「はい……。まあいっか。私ももう一回寝よ」
 振り返って思い直す。
「ユーリさんの部屋で寝てもいいですか?」
「え? 別にかまへんけど。いままで横で寝てたやん(笑)」
 そのからかいには乗らず、無言でユーリの部屋のベッドへ入る。
 この家はレイジの財力でハウスキーパーを雇っているので、たいてい散らかる前に掃除されているが、ユーリは個室の掃除は頼んでいないのか、わりと汚れていた。
「……」
 ベッドに入るとユーリの匂いがする。シャンプーと、体臭が混ざった匂い。
 そういえば……一カ月前の出会った頃を思い出す。レイジはわりと香水の匂いがキツかった。今はよく慣れたなあと自分自身に感心する。
 彼女の優はあの匂いも好きになったんだろうか……。いや、彼女なら、それは匂いすぎだと指摘するべきだった。
 そんなことを考えながら寝たせいか、レイジの夢を見た。
 のは気のせいだった。
 これは、現実。
「起きて」
 頬を軽く触られる。
「うーん……」
「起きた?」
「……。何?」
 何だ、レイジか。
「僕が無理矢理キスしたって聞いたんだけど」
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