絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「……そんな気がしたんですけど」
 レイジはゆっくりベッドに腰掛けてくる。
「覚えてないんだよね」
「それが本当だったら酷いですね。私の記憶では、酷く押し付けられたような感じだから」
「それはない」
 何を根拠に。
「じゃあ人違いか記憶違いってことですか?」
「ユキはどうかな。そんなことしないと思うけど」
「じゃあ、記憶違い」
「うーん。キスしたかなあ」
「別に、レイジさんが無理矢理キスしてないって言うんだったら、それでいいですよ」
「うん、それはない」
「……記憶ないのに、そこは確かなんですね」
「僕はね、基本的に無理矢理される方だから」
 にっこり笑顔でそう言われても、はいそうですか以外の何の言葉も出ませんが。
「……」
 無言になったので、なんとなく目を合わせてみるとこちらを見つめて少し微笑んでいたので、ああ、雑誌でこんな顔見たことあるなあ、と目を逸らす。
「なんならゆっくり……」
 何がゆっくり? と視線を戻すより早く、奴の右手がスローモーションのように、顔の左横に着地する。
「してみても……」
 硬直した。その白い顔が、迫ってくる。
 意味が分からなくて、目を見開く。
「よかったり……」
 唇と唇が触れるか触れないかの距離まで迫って、
「してね」
 何故目を合わせる!?
「する?」
 視線だけはとにかく逸らす。
「え……あ……」
 困惑した表情があまりにも幼稚だったから、多分奴はくすっと笑って身を引いたんだと思う。
「それなら無理矢理やられても仕方ない」
 くっ、くっそおぉぉぉぉぉ!!
 香月は赤い顔を隠すために布団を引っ張って、体ごと左に向いた。
「!!」
 でも言葉は何もでてこない。
「あれ? 怒った? 何もしてないじゃん(笑)」
 そうだけどー!!!
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