絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 思い出したので、意地悪のつもりで聞いてやる。
「そういえば優さん、あの、彼女の優さんどうなりました?」
 さすがに笑顔を隠した。
「別に、どうも。今愛ちゃんにキス迫ったからちょっと元気になったよ」
 うっわー、やだやだこういう人。
「でも、ありがとう。昨日、一緒に飲んでくれて」
 ……そういう流れだったんだ。
「と、当然ですよ。落ち込んでるみたいだったから」
 確か、落ち込んではいたと思う。
「倍のお礼をするよ」
 香月は目を伏せて、笑った。
「1倍でいいです」
「せめて2倍」
「ほんとに?」
「うん。僕にキスされたってことにもなってるし、何かお礼したいね」
 あそう……。
「じゃあ……会員制のカラオケ……」
「うん、1つカード持ってる」
「その会員カード貸して。ツケにしとくから」
「ツケ……」
「うん、100万もは使わない」
「いくらでも」
 可笑しくて笑った。
「そんなことなら、いつでも」
 レイジは優しく、頭を撫でてくる。
 なんだか、その優しい瞳が明らかに優を見ている気がしたが、そんなことは、今の私には絶対に何も関係ないと、強く自分に言い聞かせた。
 
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