絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ
不審なくらい、佐藤はにっこりと笑ったので
「やめてください! 私は、佐藤店長を尊敬しています。仕事ができる佐藤店長を尊敬しています。皆、そうです。皆そう言ってます!」
「うん……。仕事をしないと食べていけないから。仕事は頑張っているよ」
「だったら……」
「だけど、この気持ちだけは譲れない。香月のことが好きだ。それで人生を棒に振ってもいいと思ったんだ。もう香月くらい想いを寄せるような女性は二度といない」
「……そう思って、奥様とも結婚されたはずです」
「そんな軽い気持ちじゃない」
「では、そんな軽い気持ちで子供を作ったんですか!?」
香月は激しく迫った。
「家庭というのは、そういうものだよ」
行き場のない怒りに、言葉も迷って出てこない。
「香月……。僕の家庭のことは、僕が考えて決断をしたことだ。僕だけじゃない。息子ももう自分で考えられる年だし、妻も納得をしている」
「……家族のことは……私が分かることじゃないけれど……」
佐藤は本当に愛おしそうにこちらを見つめた。
「私は普通にしていますから。お願いですから、佐藤店長も普通にしていてください。これまでみたいに、普通にしていてください!」
「今も普通だよ。それに、当分は本社勤務だ」
「そう……ですか……」
ふっと表情が緩んだ瞬間を見逃さなかったのか佐藤は、
「安心したか?」
といつものように軽く笑った。
この状況でよく笑えるものだと思った。
それくらい、この時の佐藤の顔は清々しかった。
意味が分からなかった。
「自転車か?」
「え……?」
「今日自転車で来ているのか?」
「あ、はい……」
「送ろうか?」
こちらを見ずに、あんまりにも普通に放たれる。
「え、いえ……」
「送るよ。もう遅いし、危ない」
「すぐ……そこですし」
「嫌か?」
「やめてください! 私は、佐藤店長を尊敬しています。仕事ができる佐藤店長を尊敬しています。皆、そうです。皆そう言ってます!」
「うん……。仕事をしないと食べていけないから。仕事は頑張っているよ」
「だったら……」
「だけど、この気持ちだけは譲れない。香月のことが好きだ。それで人生を棒に振ってもいいと思ったんだ。もう香月くらい想いを寄せるような女性は二度といない」
「……そう思って、奥様とも結婚されたはずです」
「そんな軽い気持ちじゃない」
「では、そんな軽い気持ちで子供を作ったんですか!?」
香月は激しく迫った。
「家庭というのは、そういうものだよ」
行き場のない怒りに、言葉も迷って出てこない。
「香月……。僕の家庭のことは、僕が考えて決断をしたことだ。僕だけじゃない。息子ももう自分で考えられる年だし、妻も納得をしている」
「……家族のことは……私が分かることじゃないけれど……」
佐藤は本当に愛おしそうにこちらを見つめた。
「私は普通にしていますから。お願いですから、佐藤店長も普通にしていてください。これまでみたいに、普通にしていてください!」
「今も普通だよ。それに、当分は本社勤務だ」
「そう……ですか……」
ふっと表情が緩んだ瞬間を見逃さなかったのか佐藤は、
「安心したか?」
といつものように軽く笑った。
この状況でよく笑えるものだと思った。
それくらい、この時の佐藤の顔は清々しかった。
意味が分からなかった。
「自転車か?」
「え……?」
「今日自転車で来ているのか?」
「あ、はい……」
「送ろうか?」
こちらを見ずに、あんまりにも普通に放たれる。
「え、いえ……」
「送るよ。もう遅いし、危ない」
「すぐ……そこですし」
「嫌か?」