絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「……店長?」
「それはない。だが、副店長の可能性はある」
「逆に私が移動になるとか……」
「ないな。誰も2人のことは気にしていない。本当に何もなかったと思っているし、離婚したなら尚のことだ」
「そうですか……」
「まあ、まだ可能性の段階だ。だが、その色は強い。やっぱり今の店の状態としては起用したいしな」
「職権乱用するような人ではないと思います」
「俺もそう思うよ」
「……そうですよね」
「あぁ。じゃあまた、明後日」
「さすが! 私のシフト、覚えて下さってるんですね(笑) 」
「いや、明日は俺が休みだから……」
 宮下はめずらしく微笑むと香月を見送った。香月は一礼したあと、自動ドアへ向かう。その間、一度も後ろを振り返らなかったが、スカイラインがしばらくしてから立ち去ったのを、音だけで確認した。
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