絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ
香月はどこで食事をしてきたのか、1時前には俺を見つけて、社用の軽の助手席に乗り込んでいた。
「写真を見せられたんですよ、テレビを買いに来たとき。自室の写真だって言ってたんですけど、それがホテルみたいな豪華な部屋で……」
「雑誌をそのまま撮ったかのような?」
宮下はそのままギアをドライブに入れて走り出す。
「かのような。でもさっきのお菓子が風月堂のだったから本当にそうなのかなぁ……」
「丸田さんが言うには、この辺では有名な地主らしい。立派な屋敷だそうだ」
「じゃあ本当にそうなんだ! うわー、最初会ったときは全然そんな感じしなかったのになぁ」
「今日会ったが、確かにそんな感じはしない」
「なんか普通じゃないですよね……」
「ちょっとなんなんだろうな……」
「うーん。なんか、もう怖いですよ。私、今考えてもよくテレビ売ったなあと思います。頑張った! って感じ」
「そうだな。それはよくやった」
「もうどんなに大変だったか……契約コーナーで契約しますって言ったら一瞬怖い顔になって」
「何で?」
「分からないけど。でも、私が契約しますって言って一緒に歩いたら普通でしたけど」
「とんだファンだな」
「もう……。次からは絶対大物の接客はしません」
言われなくても、宮下もそのつもりだった。香月に接客させると時々厄介なクレームがつく。
それがこの、美貌のせいであることは、本人は気づいていないに違いない。香月の魅力はそういうところにある。普段はにこにこ、大事なときには真剣になって、不安なときには心配する。そういう普通の表情が、この、バランスのとれた大きな瞳と小さな唇が乗る白い肌の上で絶妙に表現されるのである。
そんなおかしな客でなくても、普通の人間でも、時々、ふっと抱きしめてみたくなることは容易にあるはずだ。
「……もしかして、あそこ!?」
「そうだな。丸田さんの車が止まっている」
「本当に……お屋敷……」
「写真を見せられたんですよ、テレビを買いに来たとき。自室の写真だって言ってたんですけど、それがホテルみたいな豪華な部屋で……」
「雑誌をそのまま撮ったかのような?」
宮下はそのままギアをドライブに入れて走り出す。
「かのような。でもさっきのお菓子が風月堂のだったから本当にそうなのかなぁ……」
「丸田さんが言うには、この辺では有名な地主らしい。立派な屋敷だそうだ」
「じゃあ本当にそうなんだ! うわー、最初会ったときは全然そんな感じしなかったのになぁ」
「今日会ったが、確かにそんな感じはしない」
「なんか普通じゃないですよね……」
「ちょっとなんなんだろうな……」
「うーん。なんか、もう怖いですよ。私、今考えてもよくテレビ売ったなあと思います。頑張った! って感じ」
「そうだな。それはよくやった」
「もうどんなに大変だったか……契約コーナーで契約しますって言ったら一瞬怖い顔になって」
「何で?」
「分からないけど。でも、私が契約しますって言って一緒に歩いたら普通でしたけど」
「とんだファンだな」
「もう……。次からは絶対大物の接客はしません」
言われなくても、宮下もそのつもりだった。香月に接客させると時々厄介なクレームがつく。
それがこの、美貌のせいであることは、本人は気づいていないに違いない。香月の魅力はそういうところにある。普段はにこにこ、大事なときには真剣になって、不安なときには心配する。そういう普通の表情が、この、バランスのとれた大きな瞳と小さな唇が乗る白い肌の上で絶妙に表現されるのである。
そんなおかしな客でなくても、普通の人間でも、時々、ふっと抱きしめてみたくなることは容易にあるはずだ。
「……もしかして、あそこ!?」
「そうだな。丸田さんの車が止まっている」
「本当に……お屋敷……」