絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ
家の周りは2メートル以上ある塀でぐるりと囲まれている。しかし、それが閉鎖的であるかといえばそうではない。まるでヨーロッパにスリップしたかのような、レンガ調で高級感がある。また、幅が広く背の高い門扉が明るい白で演出されているため、ここから抜けて入ってみたいと少し思う。
しかし、入ってしまったら最後、二度と戻れはしない……のはおとぎ話の読みすぎか。
軽トラックが止まっている来客用駐車場に駐車するなり、丸田が伝票を持って現れた。
「どんなクレーム?」
既に定年近い白髪混じりのベテラン丸田は、助手に準備をさせながら聞いてくる。
「いや、もう処理は終わったんですけどね。まあ、見に来いというので……」
「ふーん。ちょっと変わってんのかもなあ。そんな話は聞いたことある。あの、若い方だろ?」
「ええ、30半ばくらいの」
「オヤジさんは銀行のえらいさんだったけどね……。息子はどうしたことか……」
そこまで言うと、後ろを向いて、ようやく仕事に入った。
「さて。行くか」
4人は宮下を先頭に外のインターフォンを押してしばらく待つ。と、ビックリするくらいクラシカルな、お手伝い、ではなく、メイドと呼ぶに相応しい女性が出てきた。
驚きすぎた香月がメイドの全身を嘗め回すようにジロジロと見ている。後でちゃんと注意しておこう。
案内されて、堂々と開かれた門扉の間から構内に入る。中は、たくさんの木が植えられており、青々と茂っているが、地面には葉一枚落ちておらず、完璧に手入れが行き届いていた。プランターに植えられている花も名は分からないが、全て咲き誇っている。きっと森番がいるのだろう。
家自体は時々テレビで見る大豪邸、といった特に変わりない風景であった。白い壁に大きな窓が空いていたり、デザイン性中心の豪勢な建物である。どちらかといわずとも、家よりメイドの方が驚いた。蒸し暑い日にも関わらず黒い長そでのシスターのような衣装。今時こんな恰好の人物がいるのか……。
「いやあ(笑)。お恥ずかしい」
自ら誘っておいてそれはないだろうと、つい突っ込んでしまう。
しかし、確かに井野は恥ずかしいくらい、建物に全く似合わない風貌だった。つまり、先ほどと同じただのティシャツにジーンズ地上下の自称フリーカメラマンの格好である。そこで久しぶりにフリーカメラマンであることを思い出して、応接室のソファに案内されたあと、しばらく部屋中を見渡したが、それらしい証拠は一つも見当たらなかった。
香月はというと、多分そんなことは忘れているのだろう。井野の話にできるだけ合わせて頷いたり、笑ったりしている。
「まあ、お茶でも召し上がってください。こちらは中国の品でね。匂いが甘くて飲み易いんですよ」
「では……」
香月がこちらを見たので、少し頷く。
「頂きます」
「どうぞどうぞ、召し上がってください」
しかし、入ってしまったら最後、二度と戻れはしない……のはおとぎ話の読みすぎか。
軽トラックが止まっている来客用駐車場に駐車するなり、丸田が伝票を持って現れた。
「どんなクレーム?」
既に定年近い白髪混じりのベテラン丸田は、助手に準備をさせながら聞いてくる。
「いや、もう処理は終わったんですけどね。まあ、見に来いというので……」
「ふーん。ちょっと変わってんのかもなあ。そんな話は聞いたことある。あの、若い方だろ?」
「ええ、30半ばくらいの」
「オヤジさんは銀行のえらいさんだったけどね……。息子はどうしたことか……」
そこまで言うと、後ろを向いて、ようやく仕事に入った。
「さて。行くか」
4人は宮下を先頭に外のインターフォンを押してしばらく待つ。と、ビックリするくらいクラシカルな、お手伝い、ではなく、メイドと呼ぶに相応しい女性が出てきた。
驚きすぎた香月がメイドの全身を嘗め回すようにジロジロと見ている。後でちゃんと注意しておこう。
案内されて、堂々と開かれた門扉の間から構内に入る。中は、たくさんの木が植えられており、青々と茂っているが、地面には葉一枚落ちておらず、完璧に手入れが行き届いていた。プランターに植えられている花も名は分からないが、全て咲き誇っている。きっと森番がいるのだろう。
家自体は時々テレビで見る大豪邸、といった特に変わりない風景であった。白い壁に大きな窓が空いていたり、デザイン性中心の豪勢な建物である。どちらかといわずとも、家よりメイドの方が驚いた。蒸し暑い日にも関わらず黒い長そでのシスターのような衣装。今時こんな恰好の人物がいるのか……。
「いやあ(笑)。お恥ずかしい」
自ら誘っておいてそれはないだろうと、つい突っ込んでしまう。
しかし、確かに井野は恥ずかしいくらい、建物に全く似合わない風貌だった。つまり、先ほどと同じただのティシャツにジーンズ地上下の自称フリーカメラマンの格好である。そこで久しぶりにフリーカメラマンであることを思い出して、応接室のソファに案内されたあと、しばらく部屋中を見渡したが、それらしい証拠は一つも見当たらなかった。
香月はというと、多分そんなことは忘れているのだろう。井野の話にできるだけ合わせて頷いたり、笑ったりしている。
「まあ、お茶でも召し上がってください。こちらは中国の品でね。匂いが甘くて飲み易いんですよ」
「では……」
香月がこちらを見たので、少し頷く。
「頂きます」
「どうぞどうぞ、召し上がってください」