絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ
いつでも目を合わせられるように、その、澄んだ瞳を覗き込む。
「いえ、そんなことはないです。けど……。私は今のままがいいかな……。私は今の仕事が好きですし」
「そうか……。それならまあ、それでもいいが……。とりあえず今回のことは本社に連絡する。本社の対応というのもあるから……」
「私は今のままがいいです」
そんなにこの仕事を好いていると正直思っていなかったので、多少意外だった。
「みんな、優しいし。面白いし……」
「そう。なら、仕方ないか」
「はい」
彼女は笑った。つられて、自分も笑ってしまう。
特等席だと思いながら、香月の表情をずっと見ていた。バックが真っ白なのでその顔立ちがよく映える。まだ顔色は青白いが、序所に頬に赤みがさし、長い睫は忙しく揺れる。だが、決してその誘いには乗ってはいけない。
自らを戒めながらも、その誘いに乗りたいと真剣に考えてしまうそんな駆け引きを自分の中で楽しんでいるところへ、ヤグラレイジは派手に現れた。
とりあえず、廊下は相当走ってきたらしい。乱れた息を整えながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
宮下は立ち上がった。
だが、こちらに気づいていないのか。それくらい、ただベッドの方を凝視していた。
「……はあぁぁ……」
背が高く、また色白でありながらも、端正な顔つきのヤグラレイジは、香月の顔を両手に挟むようにして包むと、そのまま己の顔を香月の顔に近づけながら、しゃがむ。
しかし、キスの位置ではない。
「生きてた……」
その一言に一瞬間が空いてから、
「……宮下店長、どんな電話したんですか?」
「いや……」
言い方がまずかったかな、と思い出す。しかし、そんな生死の話はしていない。それが逆にまずかったか……。
「痛いところは?」
完全に2人の世界だ。ヤグラレイジは香月の顔を嘗め回すように両手で確認している。
「ないです」
「足は……あるね」
次はあからさまに布団の中に手を突っ込んでいる。
「あります!」
「すみません、申し送れました」
いつまでも突っ立っているわけにはいかないと、宮下は声を出した。相手はようやくこちらを向く。
「ホームエレクトロニクスの宮下です」
「ほんと……」
相手はすっと立ち上がる。
「こんなじゃなかったら、ぶん殴ってるところです」
「いえ、そんなことはないです。けど……。私は今のままがいいかな……。私は今の仕事が好きですし」
「そうか……。それならまあ、それでもいいが……。とりあえず今回のことは本社に連絡する。本社の対応というのもあるから……」
「私は今のままがいいです」
そんなにこの仕事を好いていると正直思っていなかったので、多少意外だった。
「みんな、優しいし。面白いし……」
「そう。なら、仕方ないか」
「はい」
彼女は笑った。つられて、自分も笑ってしまう。
特等席だと思いながら、香月の表情をずっと見ていた。バックが真っ白なのでその顔立ちがよく映える。まだ顔色は青白いが、序所に頬に赤みがさし、長い睫は忙しく揺れる。だが、決してその誘いには乗ってはいけない。
自らを戒めながらも、その誘いに乗りたいと真剣に考えてしまうそんな駆け引きを自分の中で楽しんでいるところへ、ヤグラレイジは派手に現れた。
とりあえず、廊下は相当走ってきたらしい。乱れた息を整えながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
宮下は立ち上がった。
だが、こちらに気づいていないのか。それくらい、ただベッドの方を凝視していた。
「……はあぁぁ……」
背が高く、また色白でありながらも、端正な顔つきのヤグラレイジは、香月の顔を両手に挟むようにして包むと、そのまま己の顔を香月の顔に近づけながら、しゃがむ。
しかし、キスの位置ではない。
「生きてた……」
その一言に一瞬間が空いてから、
「……宮下店長、どんな電話したんですか?」
「いや……」
言い方がまずかったかな、と思い出す。しかし、そんな生死の話はしていない。それが逆にまずかったか……。
「痛いところは?」
完全に2人の世界だ。ヤグラレイジは香月の顔を嘗め回すように両手で確認している。
「ないです」
「足は……あるね」
次はあからさまに布団の中に手を突っ込んでいる。
「あります!」
「すみません、申し送れました」
いつまでも突っ立っているわけにはいかないと、宮下は声を出した。相手はようやくこちらを向く。
「ホームエレクトロニクスの宮下です」
「ほんと……」
相手はすっと立ち上がる。
「こんなじゃなかったら、ぶん殴ってるところです」