絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「はい、処分をプレゼント用に、と」
「どれ……」
 矢伊豆はまず伝票を確認する。大丈夫だ、単なる後日来店伝票、包装あり。
「よくやった!」
 笑顔で、頭を軽く撫でてくるので驚いた。いや、それほど褒められるようなことでは……。
「在庫一掃セールだな」
 機嫌良く倉庫のドアを開けてくれるが……。
「まだ豪雨だな」
「私、走って行きます」
「カッパは?」
「カッパがないんです、今」
「香月はいいよ。誰か倉庫の奴にやらせよう」
「いえ、大丈夫です。濡れても、私どうせ6時上がりですから」
「いや、俺も6時上がりだけど、確実に家帰れないくらいびしょびしょになるぞ。おーい!! 誰かー!!」
「なんすかー!!」
 遠くの方から依田だけが返事する。ので、トランシーバーに切り替えた。
「すみませんが、倉庫の方、お手すきでしたら第二倉庫まで商品取りに行ってもらえませんか? 今日中でいいんですが」
 あぁそうか。時々矢伊豆が丁寧にレシーバーを飛ばすときは、相手を見てお願いしたいときなのか。
『ちょっと待ってください。先に車の荷物おろしますので、それからです』
「……了解」
「いいですよ。どうせ誰かが濡れるんです」
「……まあ、もうすぐ6時だからいいか」
 矢伊豆は簡単にそう呟くと、先に走った。次いで香月も走る。実はそう遠くはない。軒下までほんの20メートルである。
 ほんの10秒、しかし予想以上に全身が濡れた。
「あーあ、びっしょびしょ」
「あ、そうだ! 多分台車がないんです」
「えー!? 何でそれを先に言わんのだ……倉庫、倉庫……台車ありますか?」
 矢伊豆はマイクから倉庫に話しかける。
『今丁度ないです。上からとってきてください』
「なんてこった……」
 呟きながら、矢伊豆はとりあえず南京鍵を開ける。先に入って電気をつけるとまず台車を探した。
「あ、あったあった!! けど、1個だけ……か」
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