全部、私からだった。 ~AfterStory~
「赤根くん」
呼び掛けると、赤根くんは私にぼんやりした視線を寄越す。
その顔は、怒っているようにも、照れているようにも見える。
けれど、頬がほんのり微かに紅潮していて、そのせいか、さっきまでの赤根くんより随分顔色が良くなっているような気がした。
「またいつか、心からピアノが弾きたいって思ったら、いつでも教室へ来て。
待ってるから」
本心からの言葉だったけれど、赤根くんは気分を害してしまったみたいだ。
「二度と行くもんか。行く訳ないだろ?」
苦々しく呟いて、キュッと下唇を噛む。
ジッと私を睨み付けて来るその眼差しは、怒りに満ちてはいるけれど、不思議と憎しみは感じられなくて。
フッと。
無意識に私の頬が緩んだ。